委託者が主役の座を降りるのが、家族信託の目的の一つ
一つの信託に関係する人(役割)として、次の人物が登場します。(図表参照)
[図表]信託の登場人物
①委託者 ②受託者 ③受益者
④受益者代理人 ⑤信託管理人 ⑥信託監督人
委託者、受託者、受益者は必ず登場しますが、受益者代理人、信託管理人、信託監督人については、オプションのようなものなので、不要であれば登場させる必要はありません。家族信託においては、委託者と受益者を同一人物にすることが多いと思います。つまり最低2人の人物がいれば、家族信託を始めることができます。
●委託者
委託者は、もともと財産を所有していた人です。家族信託は、信託を設定する際に定められた「信託の目的」に応じて財産の管理処分が行われますので、どのような目的を定めるかがとても重要です。
もともとの財産の所有者である委託者は、信託の目的に納得しなければ財産を信託することはないでしょうから、委託者は、信託の設定をする場面において一番の影響力を持っています。
そういう意味で、委託者は最初の主役と言えます。
信託が始まってしまうと、委託者は主役の座を譲り渡すことになります。信託が始まった後に実際の財産管理をするのは受託者だからです。
むしろ、「委託者が財産管理の主役にならなくてもよくなる」というのが家族信託の特徴ですので、委託者が主役の座を譲り渡すということ自体が、家族信託の目的の一つとなります。
委託者が元気なうちは、財産の管理処分について受託者に指示を出すことも可能ですが、財産を実際に管理処分するのは受託者の仕事になります。つまり、委託者の次に主役となるのが受託者です。
受益者の信託財産の管理運用処分を行う「受託者」
●受託者
受託者は、委託者から託された財産の管理運用処分を行います。
家族信託の開始後、実際に信託を動かしていくのは受託者となりますので、委託者の次の主役と言えます。
受託者は、信託の目的に従って任された権限の範囲内で、受益者のために信託財産の管理運用処分を行いますが、不動産を売却する権限が入っていれば、受託者は委託者の関与なしに不動産を売却できます。
受託者は個人に限られていませんので、一般社団法人や社会福祉法人のような法人も受託者になれますが、信託業法の規定により、弁護士や司法書士などの専門職が受託者になることはできません。
また、他人の財産の管理運用処分に携わりますので、未成年者、成年被後見人、被保佐人は受託者になれません。
受託者がいなくなってしまうと信託を継続できなくなってしまいますので、当初の受託者が認知症になったり、死亡したりする場合に備えて、予備的に第2受託者を定めておくこともできます。
受託者は非常に大きな権限を持っていますので、その権限を悪用されてしまうと大きな損害が発生してしまいます。
したがって、絶対的に信頼できる人物でなければ、受託者を任せられません。
それだけ信頼できる人物となると、現実的には家族のような近い親族に限られてくるのではないでしょうか。