今回は、家族信託の利用で想定されるデメリットについて見ていきます。※本連載では、司法書士みそら総合事務所代表・酒井俊行氏の著書、『わかりやすい家族への信託』(すばる舎)から一部を抜粋し、認知症の財務管理対策と相続対策の両方に効果を発揮する「家族信託」の基礎知識をレクチャーします。

信託財産の指定によっては、損益通算できないケースも

前回の続きです。

 

反対に、家族信託を利用することで発生するデメリットもあります。例えば、以下のようなものが主なデメリットになります。

 

①成年後見や遺言でなければできないこともある

 

家族信託は財産管理の手法です。成年後見とは違い、本人の代わりに住居の契約をしたり、介護サービスや入所施設の契約はできません。また遺言とは違い、身分に関する内容は法律的な効力を持ちませんので、子を認知したり未成年後見人を指定することはできません。

 

②損益通算ができない

 

損益通算とは、例えば、確定申告により1棟のアパートの収支が赤字になった時、収支が黒字の別のアパートや給与など、ほかの収入の黒字とまとめる(損益を通算する)ことで、所得税を節税することを言います。

 

具体的に言うと、収支が1000万円の黒字のアパートAと400万円の赤字のアパートBがある場合、損益通算をすれば、(1000万円マイナス400万円)の600万円に対して課税されていたものが、アパートAのみを信託財産としていた場合は、黒字分の1000万円にそのまま課税されることになります。

信託設計の仕組み作りは、それなりの手間とお金が必要

③税務申告の手間が増える

 

信託財産にかかる収益額の合計額が年間3万円以上ある場合は、毎年1月31日までに信託の計算書などを税務署に提出する必要があります。

 

④信託の設計に専門知識が必要

 

信託設計をする際には、さまざまな法律や税制を考慮しながら、その家族の希望を叶えられる「オーダーメイド」の仕組みを作る必要がありますので、専門知識が必要です。一般の方が独力で行うには、どうしても難しい部分がありますので、信託設計の専門家に依頼する必要があります。そのため、何度も打ち合わせをしながら、オーダーメイドの仕組みを作りますので、それなりの報酬が発生してしまいます。

 

報酬は専門家ごとに決められていますが、信託財産の中に不動産がある場合、登録免許税などの実費を除いて、信託する財産の評価額の1%が目安になります。

わかりやすい家族への信託

わかりやすい家族への信託

酒井 俊行

すばる舎

◎相続の前に、老後の生活をいかにサポートできるかが最も重要 ◎相談に行く前の基本知識 「家族信託ってどんなもの?」という疑問に、スッキリわかりやすく答える本 ◎家族のストーリーをもとに、「家族信託」の検討から設計…

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