前回に引き続き、夫婦の別居時が「分与財産確定の基準時」とならないケースを見ていきましょう。今回は、判決内容について詳しく探ります。※本連載は、弁護士として活躍する森公任氏、森元みのり氏による編著、『2分の1ルールだけでは解決できない 財産分与額算定・処理事例集』(新日本法規出版)の中から一部を抜粋し、財産分与の概要と、分与対象財産の確定方法を説明します。

離婚成立前に別居している場合は「財産変動」を考慮

前回の続きである。

 

<コメント>

 

1 分与対象財産確定の基準時について

財産分与においては、まず、どの時点の財産を分与対象財産とするか確定するための基準時を定めなければならない。

 

財産分与は、夫婦が婚姻中に協力して形成した財産を対象とするため、財産分与の基準時は、夫婦間において相互の財産形成に対する協力関係が終了した時期とされている。

 

財産形成過程における夫婦の協力のあり方は、財産の種類や夫婦の具体的関係によっても様々であるから、特定の時点を基準として一律にその範囲を確定することは困難であるが、実務上は、離婚成立まで同居している場合には離婚成立時、離婚成立前に別居をしている場合には別居時が財産分与の基準時とされることが多い。

 

2 離婚成立前に別居している場合

実務上は、明確性・客観性の観点から別居日を一応の基準としつつ、公平の観点から事情に応じて裁判時又は離婚時までの財産変動を考慮する場合が多い(山本拓「清算的財産分与に関する実務上の諸問題」家月62巻3号27頁)。

 

例えば、別居後に夫婦の一方が新たに形成した財産については、当該財産形成に対する他方配偶者の協力がなお継続していたと認められる特段の事情がない限り、分与対象財産には含まれないと考えられている。

 

他方、別居後も妻が夫の給与を管理して、別居後も別居前と経済生活に変化がない場合には、夫婦の経済的生活では協力関係が続いているといえ、別居日と分与対象財産の基準時が異なることもあり得る。

破綻日と分与対象財産の基準時が異なる場合も

3 本事例について

本事例は、別居後も夫婦の経済的生活が同一であった例において、清算的財産分与の基準時について夫婦の経済的生活が別々になった時点とされた事案である。

 

本事例では、別居時は単身赴任中の原告と被告の行き来がなくなった平成20年8月下旬頃でありこの時点において婚姻関係は破綻したと認定されたが、分与対象財産の基準時は平成21年12月18日とされた。

 

本事例の特殊性としては、別居後も被告が原告の収入を管理し、いわゆる「財布は一つ」の状態であったため、財布が別になった日(婚姻費用の送金開始日)が基準とされたものといえる。

 

具体的には、平成20年9月に原告から被告に離婚調停の申立てがなされ不成立で終わったが、調停期間中も家計管理については別居前と同じであった。調停不成立後の平成21年4月に家族会議がなされ、被告が原告の給与を管理し、原告のクレジットカードの利用は食料品や日用品のみに限るとされ、小遣いは2万円となった。

 

その後、原告は金銭的にあまりに窮屈な生活のため、同年11月に妻の管理口座に20万円のみ残し、残りは自分の口座で管理をするようになった。

 

同年12月19日に、再度家族会議をしたが決裂し、原告は被告に対して婚姻費用として1か月25万円の送金をするという形になった。被告は婚姻費用分担調停を申し立て、平成22年3月23日に月額25万2,000円の送金と自宅の住宅ローンと管理費は原告が負担するという内容で調停が成立した。

 

本事例で、原告が被告に対して婚姻費用を送金する形にしたのが平成21年12月19日以降のため、平成21年12月18日が夫婦の経済活動が別々になった日として、分与対象財産の基準時とされた。別居後、夫婦としての交流はないが、経済活動においては協力関係がある場合には、破綻日と分与対象財産の基準時が異なるものと認定されており参考になるといえよう。

2分の1ルールだけでは解決できない 財産分与額算定・処理事例集

2分の1ルールだけでは解決できない 財産分与額算定・処理事例集

森 公任,森元 みのり

新日本法規出版

一筋縄ではいかない事件を柔軟に解決するために! ◆財産分与における実例を論点別に分析し、考慮要素や計算方法、解決案などを整理しています。 ◆事例から導かれた、実務上の留意点を「POINT」として掲げることにより、…

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