今回は、夫婦の別居時が「分与財産確定の基準時」とならないケースを見ていきましょう。※本連載は、弁護士として活躍する森公任氏、森元みのり氏による編著、『2分の1ルールだけでは解決できない 財産分与額算定・処理事例集』(新日本法規出版)の中から一部を抜粋し、財産分与の概要と、分与対象財産の確定方法を説明します。

財産分与の基準時=夫婦の経済的生活が別になった時

①別居時を財産分与の基準時としない場合(別居後もしばらく家計を同一にしていた例)

 

<POINT>

財産分与の基準時は夫婦の経済的生活が別々になった時点である。

原告の単身赴任後、夫婦関係が悪化・破綻

<事案の概要>

原告:夫(会社員・40代後半)

被告:妻(専業主婦・40代後半)

 

① 原告と被告は、平成11年6月に婚姻し、平成13年10月に長女が生まれた(口頭弁論終結時に長女は10歳)。

 

② 原告は会社員で年収が約1,200万円あり、被告は長女出産後に退職をして専業主婦になった。

 

③ 原告は、平成19年7月に単身赴任となり、しばらく夫婦で行き来があったが、平成20年8月下旬頃には行き来はなくなり、夫婦の関係が悪化して破綻した。

 

④ 平成20年9月下旬頃、原告は離婚調停の申立てをしたが、平成21年2月に不成立となった。

 

⑤ 平成21年4月に、原告と被告は各々の家族も交えて話合いの機会を持ち、家計について被告が管理をし、原告のクレジットカードの利用は食料品、日用品の購入に限られ、小遣いは2万円と決められた。

 

⑥ 原告は、平成21年11月、給与のうち20万円を被告管理の口座に残し、その余の分を原告管理の口座で管理するようになった。同年12月19日、原告と被告は話合いをしたが、話合いはまとまらなかった。

 

⑦ 被告は、平成22年1月に婚姻費用分担調停を申し立て、同年3月23日に、原告が被告に対し月額25万2,000円の婚姻費用を支払う旨の調停が成立した。被告と長女が居住する自宅マンションのローン(返済額毎月8万円、賞与月20万円)と管理費も原告が支払っている。

 

⑧ 原告は、平成22年4月頃離婚訴訟を提起した。被告は、離婚の棄却を求め、予備的に財産分与の附帯請求をした。

 

⑨ 原告は、財産分与の基準時につき、平成21年12月18日まで、被告が原告の口座から出金しており、平成22年1月以降になって、原告が被告に対し、婚姻費用を送金する形になったから、財産分与の基準時は平成21年12月18日であると主張したが、被告はこれを争っている。

 

(参考:平成24年1月さいたま家庭裁判所判決(【事例8】【事例47】【事例56】と同一事例))

 

<判決内容

原告と被告の経済的生活は、平成21年12月18日以降、別々になったとみられるから(証拠、弁論の全趣旨)、財産分与の基準日は、平成21年12月18日とするのが相当である。

 

この話は次回に続く。

2分の1ルールだけでは解決できない 財産分与額算定・処理事例集

2分の1ルールだけでは解決できない 財産分与額算定・処理事例集

森 公任,森元 みのり

新日本法規出版

一筋縄ではいかない事件を柔軟に解決するために! ◆財産分与における実例を論点別に分析し、考慮要素や計算方法、解決案などを整理しています。 ◆事例から導かれた、実務上の留意点を「POINT」として掲げることにより、…

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