本連載は、鳥飼総合法律事務所の代表弁護士である鳥飼重和氏の著書、『法的思考が身に付く 実務に役立つ 印紙税の考え方と実践』(新日本法規出版)の中から一部を抜粋し、経営者として理解しておきたい印紙税の基礎知識をご紹介します。

契約書に見えなくても、印紙税法上では契約書に!?

下記の「修理承り票」は、印紙を貼るべき契約書に見えますか。

 

 

「契約書には、印紙を貼らないといけない」

 

そう思っている方は多いと思います。契約書とは、当事者双方が合意した文書のはずです。では下記の「修理承り票」は、甲と乙が合意した文書に見えますでしょうか。この文書の記載からは、依頼者の乙が修理を依頼したように見えます。しかし、甲スーパーと依頼者乙が修理について合意したようには見えません。これに「印紙を貼れ」と言われたら、普通の人は言いたくなるでしょう。

 

「それって嘘でしょう」と。

 

普通の人なら誰が見ても、これを契約書とは考えません。しかし、この文書は、印紙税法上、契約書にあたる可能性が高いのです。請負に関する契約書という、印紙税法上で、課税文書と呼ばれる課税される文書です。印紙税額を200円として課税されます。

 

なぜ、一見すると契約書に見えないものが印紙税法上の契約書となるのか。そして、印紙税額が200円となるのはなぜか。それは、この本を読めば自然と理解できるようになります。

印紙を貼らなかったばかりに、過怠税が発生した例

あなたは、「たかが200円の印紙税」と思うかもしれません。しかし、印紙税の200円は、「されど200円」なのです。

 

以前、上記の「修理承り票」と似た文書に印紙を貼らなかったために、ある大手スーパーが3,300万円の過怠税を課されました。これは、3,000万円の印紙を貼らなかったため、行政上の罰として、その1.1倍の3,300万円が徴収されたものです。

 

「たかが印紙税ですが、されど印紙税です」

「たかが200円ですが、されど200円です」

 

この3,300万円の過怠税が会社にどれほどのダメージを与えるかわかりますか。会社は、想定外の重いダメージを受けることになるのです。

 

3,300万円の過怠税を納付することで、この会社がどれだけの売上高とそれに必要な経費を無駄にすることになるのか、ここで少し考えてみましょう。

 

話をわかりやすくするために、この会社の売上高純利益率を2.5%、法人税率は30%と仮定します。

 

売上高純利益率とは、売上高に対する純利益の割合を示すものです。売上高純利益率2.5%ということは、純利益を上げるためには、その40倍の売上高が必要になることを意味します。仮に純利益が1,000万円の会社の場合ですと、その40倍の4億円もの売上が必要となるのです。

 

ここでは税金計算は省略して、結論だけを言います。3,300万円の過怠税を納付することで、売上高3億9,600万円、経費3億5,640万円がそれぞれ無駄になってしまうのです。また同時に、ここまで積み上げてきた従業員の努力も無駄となってしまいます。

 

これでもあなたは、「たかが200円の印紙税」と言えますか。印紙税法を理解しないと経営者と従業員の努力で築いた約4億円の売上を無駄にすることになるのです。印紙税の初歩的な知識があれば、会社はこうしたダメージを避けることができます。

 

印紙税の初歩的な知識があれば、文書に印紙を貼らなくてすむ工夫ができるようになるのです。

 

例えば、上記の修理承り票に「修理費は8,000円以下とする」と記載すれば印紙税が課されることはありません。また、この文書の表題を変えることで印紙税が課されないようにすることも可能です。

 

いずれも、この本を読めばわかるようになります。

法的思考が身に付く 実務に役立つ 印紙税の考え方と実践

法的思考が身に付く 実務に役立つ 印紙税の考え方と実践

鳥飼 重和

新日本法規出版

200円の印紙税が会社の売上4億円を無駄にする!? あなたは、「たかが200円の印紙税」と思うかもしれません。しかし、印紙税の200円は、「されど200円」なのです。 判断の難解な印紙税実務を、多くの事例をもとに分かりやす…

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