今回は、超高層ビルですら「最低基準の建築基準法」に基づいて建設されているという現状を取り上げます。※本連載は、建築耐震工学、地震工学、地域防災を専門とし、全国の小・中・高等学校などで「減災講演」を続けている名古屋大学教授・福和伸夫氏の著書、『次の震災について本当のことを話してみよう。』(時事通信出版局)の中から一部を抜粋し、震災によって起こり得る最悪の事態を防ぐための知識を紹介していきます。

「軟らかく揺れやすいから安全」と言われてきたが・・・

大都市に林立する超高層ビルも、最低基準の建築基準法を基本としてつくられています。普通のビルとは少し計算の仕方が違いますが、中にはギリギリにつくっているものがないとは言えません。

 

かつて、超高層ビルは地震の揺れに「柳に風」と振る舞い、軟らかく揺れやすいから「安全」だと言われました。また、多くの建築関係者は、最新の技術を使っているから大丈夫だとも主張してきました。でも、考え方次第では「そんなに大丈夫ではなさそうだ」とも言えそうです。

3.11で「大阪の高層ビル」が往復3メートル弱揺れた!?

東日本大震災では、震源から770キロメートル離れた大阪府で、55階建ての大阪府咲洲(さきしま)庁舎が、最上階付近で左右に往復3メートル弱も揺れました。地盤を伝わった揺れと建物の周期が6.5秒程度と、ほぼ一致。共振現象が起きて、周期6.5秒の揺れは地面の50倍、地盤の中の基盤からは1000倍にも増幅されました。

 

けが人こそ出ませんでしたが、内装材や防火戸など約360カ所が損傷しました。エレベーターに5時間以上も閉じ込められた人たちもいました。上の階にいた人たちは本当に怖かったことでしょう。

 

当時の橋下徹知事は、府の本庁舎を咲洲庁舎に全面移転する計画でした。しかし、安全性を検討する専門家会議が設置され、私も参加して、地盤と建物の共振の問題を指摘したことで、橋下知事は全面的な移転を断念してくれました。

 

[図表]大阪府咲洲庁舎

 

東京駅前にたくさん建っている大企業が入った超高層ビルでは、たいてい上階にトップの部屋があります。そこが何メートルも揺さぶられたら、まともな災害対応はできないでしょう。

(*高層ビルは普通のビルに比べて桁違いの重さを支えています。このため余裕のない設計になってしまいます。私は超高層ビルを否定しませんが、「好きではありません」。)

(*2004年の新潟県中越地震では、震源から200キロメートルも離れた東京で、高層ビルのエレベーターが緊急停止して乗客が閉じ込められました。地震動によるエレベーターのワイヤの共振によって、ワイヤが切れる事象もありました。)

本連載は、2017年11月30日刊行の書籍『次の震災について本当のことを話してみよう。』(時事通信出版局)から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください

次の震災について本当のことを話してみよう。

次の震災について本当のことを話してみよう。

福和 伸夫

時事通信出版局

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