調査官とのやり取りを録音して「論点」を明確にする
税務調査では、調査官との“駆け引き”が必要となることもあるかもしれません。すなわち、具体的な状況次第ですが、調査官の裏をかくようなことを行わなければならないこともあるかもしれません。
たとえば、「申告に税法違反がある」という調査官からの指摘に納得できない場合には、効果的な反論を試みなければなりません。そのためには、何を論点としているのかを明確にしなければなりません。論点がぼやけたままだと、税務署とのやり取りがかみ合わないままになるおそれがあるからです。
そして、論点を明確にし税務署側の主張の間違いを適切な形で示すためには、調査官とのやり取りを録音することが必要となることもあるかもしれません。もっとも、調査官に対して、面と向かって録音の可否を尋ねても、「調査に支障が生じるからやめてほしい」などと拒絶されることは間違いありません。
したがって、あえて調査官には何も言わずに、こっそりと録音するのです。「秘密に録音しても大丈夫なのだろうか・・・」と思うかもしれませんが、何の問題もありません。そもそも、税務調査の際に、秘密録音を行うことを禁じるような法の規定は存在しません。筆者自身も過去に、税務調査で気づかれないように録音したことが幾度かあります。
また、仮に税法違反の存否などを巡って税務当局と裁判になった場合にも、秘密録音によって得た資料は立派な証拠となります。秘密に録音することが違法ではなく、その録音物が訴訟において証拠資料となることは最高裁も認めています。参考までに、相手方の同意を得ずに秘密に録音することを適法とした最高裁の判例を引用しておきましょう。
「本件で証拠として取り調べられた録音テープは、被告人から詐欺の被害を受けたと考えた者が、被告人の説明内容に不審を抱き、後日の証拠とするため、被告人との会話を録音したものであるところ、このような場合に、一方の当事者が相手方との会話を録音することは、たとえそれが相手方の同意を得ないで行われたものであっても、違法ではなく、右録音テープの証拠能力を争う所論は、理由がない」(最高裁平成12年7月12日第二小法廷決定)
このように、税務調査の際に秘密に録音することは合法的な行為といえます。もっとも、調査官との全てのやり取りを録音する必要はないでしょう。「このやり取りは問題になりそうだ」と思ったところで録音ボタンを押せば十分でしょう。その際には、録音を行っていることを過度に意識しないようにするのが大切です。不自然に緊張している様子などを示せば、調査官に怪しまれ、録音していることに気づかれてしまうかもしれません。
調査官のプロフィールを事前に確認しておくことも有効
もう一つ、“駆け引き”という点では、調査官のプロフィールを事前に調査。確認しておくこともお勧めします。調査官は、調査対象とする会社について、過去の決算書はもちろん、取引先から得た反面資料も駆使して、ありとあらゆることを事前に徹底的に調べてきます。
ところが、調べられる企業の側は、調査官のことは何も知らないまま税務調査に臨むことになります。税務調査で足下をすくわれないよう十分な準備を行うためには、調査官がどのような経歴なのか、これまでどのような部署にいて、何を専門としていたのかを把握しておくことが重要になります。
たとえば、キャリアが若い人よりは、やはりある程度経験を積んでいる人の方が、手ごわい相手となるでしょうし、また、過去に国税局の調査部門にいたことがあるような税務調査のエキスパートの場合には、最大限に警戒する必要があるでしょう。
個々の税務署職員のプロフィールについては『10年職歴』(税経)という書籍に掲載されていますので、入手して一度目を通しておくといいかもしれません。