前回は、中小企業が「自社の人材育成」に全力を傾けるべき理由を説明しました。今回は、自社の従業員に「共通目的」を認識させるメリットについて見ていきます。

「共通目的」を作ることで、従業員間に絆が生まれる

また、組織論の大家であるチェスター・バーナードによれば、組織とは「2人以上の人々の意識的に調整された活動や諸力の体系」であり、共通目的、貢献意欲、コミュニケーションの3つが必要であると言っています。

 

なぜ、組織(会社)には共通目的が必要なのでしょうか。それは私たちの周りに多く存在するコミュニティと比較すればよく分かります。コミュニティは人種、言語、文化、地域を核に、構成員の「絆」によって形成されています。

 

ところが組織(会社)はもともと赤の他人ばかりが集まっているため、コミュニティに存在する「絆=情」は基本的に存在しません。代わりに、組織の構成員全員が共通で持てる「目的」が必要になるわけです。

 

その目的は通常「ビジョン」と呼ばれます。組織の構成員を束ねる目的ですから、例えば、「幸せな未来を創る」「高齢者に優しい世界を」「業界で売上ナンバーワンになる」などのようにぼやけた言葉で作られたビジョンではいけません。「目的」をどのように掲げるかはその後の組織の明暗を左右すると言っても過言ではないのです。

 

コミュニティは「目的」がなくても安定して存在します。それは、「絆=情」という、ロジックとは別の世界のものでしっかりと繋がっているからです。

 

では、組織にこの一般的なコミュニティが持つ絆=情を持たせることはできないのでしょうか。そんなことはありません。一般のコミュニティの礎である絆を会社組織に持たせることができれば、「目的」+「絆」という2つの強力な安定化装置がしっかりと会社組織を支えてくれます。

 

「目的」はロジックの世界です。その作成過程でセンスの世界を覗くことはもちろんありますが、最終的に強い言葉で言語化されますから、ロジックの世界の話です。しかし、絆はセンスの世界の話です。従って、絆を言語化してまとめ上げることなどできません。

 

バーナードが言った「諸力の体系」の「諸力」の中には、マクレガーの言った人間的側面や、一般のコミュニティの中にある「絆=情」のような要素も含まれるのだと思います。

 

また、「体系」とはシステムのことですから、組織の構成要素(部門や構成員)の相互作用が必要であるとしています。その相互作用は、「公式的」なものだけでなく、絆に代表されるような「非公式」のものまでを念頭に言っているのだと考えます。

「内発的要因」を与え、社員のやる気を引き出す

さらに「モチベーション(動機付け)」についても考えてみましょう。心理学ではモチベーションには、「外発的動機付け」と「内発的動機付け」の2種類があるとしています。

 

「外発的動機付け」とは、報酬や罰などの外的な要因があることで動機付けが高まることで、「内発的動機付け」とは、外的な要因がなくても動機付けが高まる、即ち、すること自体が動機になることです。

 

今後右肩上がりの経済が困難である以上、外発的動機付けだけで人事評価制度を設計することは不可能であると先ほど説明しました。また、外発的動機付けだけで管理をすると、上司に気に入られるような仕事しかしないという好ましくない仕事のスタイルを助長する結果になりかねません。

 

外発的動機付けの全てを否定するわけではないですが、今後、より重視するべきは内発的動機付けです。自ら進んで組織に貢献するのだという意欲の高い従業員をいかに育てるか。そのためには、ロジックとセンスの両方の世界からのアプローチで、個人の能力の開発と、構成員の間にある「関係性」に注力した人材マネジメントが必要なのです。

本連載は、2017年5月26日刊行の書籍『「事業再生」の嘘と真実 』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「事業再生」の嘘と真実

「事業再生」の嘘と真実

弓削 一幸

幻冬舎メディアコンサルティング

コスト削減、管理会計、人事評価制度── ロジックだけに頼るのは今日で終わり! 中小企業約100社を経営危機から救った事業再生のプロが、稼げる事業体質作りを指南。 中小企業・小規模事業者には厳しい経営環境が続いてお…

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