現場スタッフの意見が本社に届かなかったK社だが・・・
K社は、地方にある内装資材の製造販売メーカーです。国内と海外に製造拠点を持ち、営業マンが全国の工務店や設計事務所に営業をしています。
K社も組織に問題を抱え、長く工場と営業を含む本社の間での対立が深刻化していました。とりわけ工場による本社営業部門への不信感が根強く、現場スタッフは業務改善の素晴らしいアイデアをたくさん持っているにもかかわらず、本社への提案は全くと言っていいほど行っていませんでした。
同社は伝統的に営業部門が力を持つ会社で、工場からの提案を根拠もなく長年にわたって退け続けていたのです。
営業部門は昔ながらの仕事のやり方に固執し、会社全体の生産性は高いとは言いがたい状況でした。このまま工場と本社の確執が続けば組織全体としての力が発揮されず、経営改善を進めることができないと考えた私は、工場と本社の関係性を改善する目的で「組織開発」に取り組むことにしました。
組織開発とは、組織に属する人と人との関係性に着目し、全社一丸となるための組織作りのことです。K社の場合、まず、私から工場スタッフ全員に、
「本社、営業、その他の部門、あるいは役員に対して言いたいことを何でも書いてください。無記名で結構ですし、筆跡から個人が特定されると心配される方は、もちろんパソコンを使っても結構です。書き終わったら、同封の封筒に入れて封をし、投函してください。直接弓削の元に届くようになっています。
また、記載した内容は、後日皆さんと共有する場を持ち、かつ、重要な点は役員等にも報告して改善を促す予定です。よろしくお願いいたします」という内容の手紙を出し、返信が来るのを待ちました。
「無記名アンケート」で社員の本音を引き出す
無記名としたことで、ほぼ全てのスタッフから回答があり、多くのヒントを得ることができました。ここに記載された事実を元に工場サイドに公開してミーティングの場を持ちましたが、その時にはものすごいエネルギーを感じました。彼らの真摯なまでの業績改善に対するエネルギーです。
今までは、何を訴えても耳さえ貸さなかった本社サイドが、今度は本気で動いてくれるのかもしれないという期待感もあったのでしょう。
本社の役員等にも、工場の方がどのように思っていたのか、その切実な気持ちを全て報告しました。
「工場の現場はこんなことで気を悪くしていたのか・・・」。マネジメント層は日頃、工場スタッフが抱いている思いを目の当たりにし、現場に不満を抱かせる状況を放置していた自分たちの非を認めました。そこで私は社長以下、役員、幹部に工場に出向いてもらい、全ての工場スタッフの前で謝罪してもらったのです。謝罪する場を設けましょうと言う私の提案にすぐに同意した社長以下役員、本社幹部の潔さには感服します。
すると不思議なもので、工場と本社の間で凝り固まっていた対立構造が一気に氷解しました。あれほど本社営業部門を批判していた工場のスタッフたちも、マネジメント層が頭を下げたことで「自分たちにも悪いところがありました」と本社と向き合う姿勢を示したのです。
これまで対立していた工場部門と本社営業部門が歩み寄る状況を目の当たりにし、組織の関係性を良くする上で「謝る」ことの重要性を再認識しました。素直に悪い点を認め謝ることで、人と人は打ち解け、「関係性」が一気に修復してしまうのです。
このK社の社長は考えが柔軟で、良いと思った取り組みや先進的な取り組みは何でも取り入れる意欲のある方です。上の立場の人間が部下に頭を下げるのは簡単ではありませんから、このK社の事例はトップの勇気と決断が引き寄せた成果であると言えます。
その後、K社では半年に1回、「ビジネス改革アイデアコンテスト」を開催することとなりました。各部門で予選を行って、予選を突破した者だけが役員を前にした本大会で「改革アイデア」の発表を行います。もちろん、社長賞、常務賞などの「外発的動機付け」も準備しています。
業況が悪化している会社は、この「関係性」が本当に悪くなっています。しかし、その悪化に気付かない経営者が本当に多いというのが実感です。