今回は、米国の代表的なエンダウメント、イェール大学のポートフォリオについて見ていきます。※本連載では、株式会社GCIアセット・マネジメント、投資信託事業グループの執行役員である太田創氏が、「米国名門大学のエンダウメント投資戦略」とは何かを、初心者にもわかりやすく説明します。

「伝統的資産」への配分を徐々に減らした理由

今回は、イェール大学のエンダウメントを取り上げてみましょう。足元では、同エンダウメントは運用資産の約8割をオルタナティブ投資で運用しており、その配分比率の高さは他のエンダウメントとは一線を画しています。また、そのパフォーマンスも過去20年間で年平均12%のリターンを計上し、米国株(S&P500指数)のリターンを5%ポイント以上も上回っているのです。そのリターンの中身を見ていきましょう。

 

[図1]イェール大学エンダウメントの資産配分推移

(注)http://investments.yale.edu/よりGCIアセット・マネジメント作成
(注)http://investments.yale.edu/よりGCIアセット・マネジメント作成

 

 

図表1は、イェール大学エンダウメントの資産配分の推移です。一見してお分かりのように、30年以上前はイェール大学であっても株式と債券(現金等含む)への投資割合がほぼ9割で、オルタナティブ資産へは約1割それも殆どが不動産となっていました。1985年当時の米国10年国債の利回りは約8%、株価(S&P500指数)は年間約10%程度上昇し、米国株と米国リートの配当利回りは、それぞれ約3%、約9%となっていました。

 

このペースで運用できたとすると、次の10年では株価は2.5倍、債券は2.2倍、米国リートは2.4倍にもなる計算になりますから、当時はあえてオルタナティブ投資を考える必要はなかったわけです。ちなみに、1985年当時の米国のインフレ率は4%程度ですから、債券投資の実質利回りは年4%になり、10年間運用すると実質金利ベースで1.5倍になる勘定です。

 

ところが、1987年にはブラックマンデー、90年代には湾岸戦争、2000年代のITバブル崩壊とリーマンショック(2008年)とネガティブな経済事象が次々と起こり、株価のボラティリティ(株価の変動率)は大きくなり、株価は上昇するものの長期金利は低下の一途をたどり、ついにFRB(米連邦準備制度理事会)でさえ実質ゼロ金利政策を採るようになってきました。

 

リターンはそこそこ取れるけれどもボラティリティが上昇して、リスク値当たりのリターンが悪化したり、予想外の暴落でパフォーマンスが安定しなかったりするのは問題です。前述のような時代背景を結果的に先取りし、イェール大学は伝統的資産への配分を徐々に減らし、オルタナティブ投資への配分を増やし、現在ではポートフォリオの8割程度がオルタナティブ投資で占められているようになりました。

実は得意とする「ベンチャー・キャピタル投資」

あまり知られていませんが、イェール大学エンダウメントの高いパフォーマンスを支えているのがベンチャー・キャピタル(VC)です。VCは、会社設立が間もないものの革新的な技術やビジネスモデルを持ち、業界の破壊者ともなるべき将来性を持つ企業に投資する投資家、またはその資金のことを指します。

 

同エンダウメントは、1970年代後半からこのVC投資に参入し、1970年代から80年代にかけて、その後米国を代表する企業となるオラクル(IT)、デル(IT)、アムジェン(バイオテクノロジー)といった企業にも投資をしています。また90年代にはアマゾン、ヤフー、シスコ・システムといった巨大企業の創業時代にも投資をしています。

 

 

近年では、ビジネスSNSのリンクトイン(LinkedIn)にも投資を行っています。当初投資した資金は約3憶円だったのですが、その後同社が上場したこともあり、同社投資後のキャピタルゲイン(値上がり益)は約95億円にもなりました(株価は取得時と比較して32倍)。

 

一見するとギャンブルのようにも見えますが、VCの場合は1勝9敗でもリンクトインのような事例が出てくると、全体のポートフォリオにはかなりの超過収益を与えることになります。こうした実績を背景に、イェール大学は卒業生の中から数多くのベンチャー・キャピタリスト(VC投資家)を生み出しており、運用関係者から一目置かれる存在になっています。

 

(参照文献:The Yale Endowment 2015)

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