「長期停滞に陥るかいなか」という局面にある日本
・フィスコ取締役 中村孝也
・シークエッジグループ代表 白井一成
・フィスコIR取締役COO 中川博貴
フィスコ世界経済・金融シナリオ会議は、フィスコ・エコノミスト、ストラテジスト、アナリストおよびグループ経営者が、世界各国の経済状況や金融マーケットに関するディスカッションを毎週定例で行っているカンファレンス。主要株主であるシークエッジグループ代表の白井氏も含め、外部から多くの専門家も招聘している。それを元にフィスコの取締役でありアナリストの中村孝也、フィスコIRの取締役COOである中川博貴が内容をとりまとめている。2016年6月より開催しており、これまでに今後の中国経済、朝鮮半島危機を4つのシナリオに分けて分析してきた。今号では第4次産業革命にともなうイノベーションが日本経済にもたらす影響について同分析会議でいかに考察されているのか、主要構成メンバーの1人であるフィスコIR取締役COOの中川博貴氏に話を伺った。
日本は1990年代のバブル崩壊後、失われた20年を経験した。その後も経済はバブル崩壊前の水準に回復せず、2008年にリーマンショックによる金融危機、2011年に東日本大震災もあり、経済成長の伸び悩みに直面している。
ただ、経済成長の伸び悩みに直面しているのは日本だけでなない。日本以外の先進諸国にもその症状は現れている。こうした経済情勢を米国の元財務長官で現ハーバード大学教授のローレンス・サマーズ氏は2013年11月に国際通貨基金(IMF)の会合にて「長期停滞」と称した。
これは、労働力人口の伸び率低下で生産性が長期的に伸び悩み、経済の潜在成長率を押し下げるという状況である。加えて、生産性の向上を促すはずの投資が停滞し、製品やその製造工程における目に見える技術的進歩の余地も限界を迎え、慢性的な需要不足に陥る状態のことだ。
日本はどの先進諸国よりも早く人口減少の局面を迎え、国内需要は縮小傾向にある。また、従来からある社会システムの転換が進まず、規制改革の遅れなども経済成長への足枷だ。このような状態が続けば、慢性的な需要不足と資本・労働生産性の伸び悩みに陥ることになるだろう。日本は今、長期停滞に陥るかいなかという局面にある。
「CPS」を基とする第4次産業革命への期待
世界ではこれまでに3度の産業革命を経験してきた。第1次産業革命は18世紀後半の蒸気による工場の機械化、第2次産業革命は20世紀初頭の電力活用による大量生産、第3次産業革命は1970年代から始まった電力とITによる工場の自動化だ。そして今、現実社会と仮想空間が一体となるサイバーフィジカルシステム(CPS)を基とする第4次産業革命への期待が広がっている。
第4次産業革命は農業中心から工業中心に世界経済が大きく分岐した第1次産業革命時と同じくらい大きな変革をもたらすという。
米歴史学者ケネス・ポメランツ氏の著書『大分岐中国・ヨーロッパ、そして近代政界経済の形成』によると、16〜18世紀のヨーロッパとアジアには、第1次産業革命が起こるまで経済発展の度合いに差がなかった。しかし、その後に機械的生産方式を導入した欧米諸国と導入しなかったアジアおよびアフリカ諸国は経済発展の程度で大きな差が生じたという。
歴史に学べば、第4次産業革命によって日本は、長期停滞から脱却し、大きく成長する可能性があるということだ。日本は果たしてこの波に乗れるのだろうか。