メディアで話題になる「旬のネタ」には要注意
損をする理由のまず1つ目は、買いやすい「人気のテーマ型投資信託」であることです。買いやすいテーマ型とは投資家から見れば、「いいね」「投資してみようかな」と思いやすいということです。つまり、テーマ型投資信託とは、ある特定のテーマを投資対象にしている投資信託です。
人気のテーマ型投資信託の投資対象となる「テーマ」は、新聞、雑誌などのメディアで話題になるような、いわゆる旬のネタが多いものです。そのため、良い話が様々なメディア等を通して投資家の耳に入ってくるので、投資家から見ても魅力的に映ります。金融機関からすると投資家が関心を持っているので、「いいね」と思っていただきやすくなります。
ところが、そんな人気のテーマ型投資信託を買って、損をしてしまう人が多いのです。それはなぜでしょうか。
下の図表1、2を見てください。これを中国の株式市場全体の動きだとしましょう。実際にはこのようなきれいなカーブを描いているわけではありませんが、一番低いところが、2001年だとしましょう。また、一番高いところが2007年です。
[図表1]人気の「テーマ型」が損をする理由
[図表2]中国株ファンドの動きのイメージ
「同じ期間に中国の株式で運用する投資信託があったとして、どこで買ってどこで売れば良かったですか」と聞かれれば簡単です。2001年に買って2007年に売れば実際に何倍にもなりました。投資家にとっては2001年に買って2007年に売れば良かったわけですが、次の質問にはどのように回答しますか。
「この中国株式で運用する投資信託を金融機関はどこで販売すると一番売れるか、またどこで販売すると一番売れないか」
答えは2007年に販売すると一番売れ、2001年に販売すると一番売れません。これだと実際に買うべきタイミングと売るべきタイミングが逆になります。なぜこのような現象が起こるのでしょうか。
「売れる」ということだけは予想できる時期が・・・
まず2001年がどんな時代だったかを説明します。2000年にITバブルが崩壊し、経済が失速する真っただ中でした。アメリカで同時多発テロが起こったのもこの年です。新興国では、アルゼンチンやトルコで経済不安のニュースが出ており、総じて世界的に悪いニュースが多かった時期で、各国の株式市場も低迷していました。投資家のマインドも下がっており株式投資が敬遠されがちな時期だったわけです。
そんなときに先見の目を持って金融機関が「中国は世界貿易機関(WTO)にも加盟し、これから経済発展が期待でき、株価の上昇も期待できるから中国の株式に投資をする投資信託を買いましょう」と販売しても、なかなか売れません。投資家は「世界的に景気が悪そうだし、中国の株式は詳しくない」と考える人が多いからです。
「マーケティング」という視点で見た場合、企業は一般的に「消費者のニーズがあるものは何か」を考え商品化し、販売します。このマーケティングの視点で考えれば、このタイミングにおいては中国株に投資をする投資信託は、投資家(消費者)のニーズがない商品ということになります。企業は売れないと予想されるものを製品化して積極的に販売したりはしません。それは金融機関でも同じです。ですからこの時期には中国株式に投資をする投資信託は販売されないのです。
一方、2007年(特に前半)はどんな時期だったかを説明します。中国は2008年に北京オリンピックを控えて、特に2006年以降は株価が急上昇していました。新聞を広げると「GDPで十何%成長」と書いてあり、週刊誌には「中国株の儲け方」といった内容の記事が掲載され、書店には中国株関連本のコーナーができ、様々な本が並んでいました。
「世紀は中国の時代だ」という話も頻繁に出ていました。「中国の良い話」が投資家の耳に刷り込まれているわけです。一部ではバブルではないかと指摘されていましたが、「オリンピックの前に共産党政権が株価を下げるようなことはしないはず」といった論調もありました。そんな時期は投資家の「ニーズ」が非常に強いのです。
金融機関の立場からすると「売れる商品」です。実際、各証券会社は中国の株式に投資をする新商品をよく販売していました。3日で1000億円完売した投資信託もありました。投資家からしても、こういう時期は「いいね」と思いやすいものです。たとえば、2007年の夏頃の投資信託の評価サイトなどで直近1カ月の上昇率ランキングを見ると、トップ10を中国株で運用する投資信託が独占していました。直近3年間の上昇率ランキングを見てもトップ10を中国株で運用する投資信託が独占しています。
では、この時期に中国株で運用する投資信託を買ったらどうなったか。蓋を開けてみると、2007年秋をもって中国株は大暴落しました。「オリンピックまで上がるはずだったのに」という嘆きの声も聞こえてきましたが、実際にはその前に下がってしまいました。
金融機関を批判しているわけではありません。金融機関も投資家も、その後大暴落するとはわからなかったわけです。ただ「売れる」ということは予想していたはずです。