保険の設計に使われる死亡率=国民の平均的な死亡率
前回の続きである。
1 年齢別の死亡率に基づいた合理的な保険料の設定
2 申込者に対する医学的審査の導入
3 最高保険金額の制限
上記の制度2、3について説明する。まず、確率的な物事に関する理論がちゃんと機能するためには、大数の法則が働く環境を整えなければならない(本書『「大数の法則」がわかれば、世の中のすべてがわかる!』第1章に詳述)。そのためには、大勢の人に加入してもらう必要がある。それは、営業の人(ライフコンサルタント)に頑張ってもらうしかない。そしてほかにも忘れてはならないのが、「独立性」と「同一性」である。
「独立性」については、本書の第1章で説明したように、約款の中で「戦争その他の変乱」のような異常事態での保険金支払いを免責することで担保しているのであった。それでは、「同一性」についてはどうやって担保しているのだろうか?
実は、制度2、3によって「同一性」が担保されている。2の医学的審査によって、死亡率を高めるような病気にかかっていないかどうかを調べるということだ。保険の設計に使われる死亡率は、基本的には国民の平均的な死亡率である。現代の日本の生命保険会社は「生保標準生命表」という生命表を使っているが、これは日本の生保各社から集計した生命保険被保険者の死亡統計に基づいている(死亡保険金支払いが発生した契約は被保険者が死亡した、発生していない契約は生存しているということなので、死亡率を計算することができる)。つまり、被保険者全員の平均にあたる死亡率が使われているわけだ。
このように、保険が前提としているのは、あくまで平均的な死亡率を持つ人である。そのため、被保険者の集団の中に死亡率が平均より高い人が混ざると「同一性」が崩れてしまう。だから、医学的審査をすることで、死亡率が平均的なレベルかどうかを確認しているのだ。このことは、公平性の観点からも重要である。なぜかというと、すべての保険契約者は危険保険料という「他人のためのカンパ金」を支払っているので、死亡率の高い人が混ざると、平均的な死亡率の人たちの潜在的な負担が増してしまうからだ。
最高保険金額を制限し、保障額の偏りをなくす
あとは制度3の「最高保険金額の制限」についてだが、これは本書第1章で説明した通りで、飛び抜けた保障額の人がいると、その人が死亡したときにものすごい額の保険金支払いが発生して保険会社の経営が不安定になってしまうからだ。最高保険金額を制限することで保障額の偏りが生じすぎないようにして、「同一性」を担保しているのである。
以上のように、保険会社は大数の法則を働かせるために様々な努力をしている。まずは理論(死亡率)を設定して、理論と現実を近づけるために大数の法則が働く状況を作る。そのために「独立性」(「戦争その他の変乱」などの異常事態での保険金支払いを約款で免責)と「同一性」(医学的審査や最高保険金額の制限)を担保している。そして、契約者数を増やすためにライフコンサルタントが必死で売り歩いているわけだ。そうやって大数の法則が働く環境をちゃんとキープしないと、昔の保険組合のように解散に追い込まれてしまうのである。