今回は、生命保険料の合理的な算出に不可欠な、「生命表」が誕生した経緯を見ていきます。※本連載はジブラルタ生命保険株式会社勤務、冨島佑允氏の著書『「大数の法則」がわかれば、世の中のすべてがわかる!』(ウェッジ)の中から一部を抜粋し、世の中で大数の法則がどのように活用されているかなどをご紹介します。

各年齢における死亡率を計算した「ハレーの生命表」

ハレーの生命表を下記に載せたので見ていただきたい。ハレーは、ドイツのブレスラウ(現在はポーランド領)という地域の住民の出生・死亡統計をもとに、この表を作成した。オリジナル(図表)は見づらいので、下に分かりやすくした表を載せた。

 

これから生命表の見方を説明するので、下記の図を見ながら読んで頂きたい。

 

[図表]ハレーの生命表

 

この表は上段・下段に分かれている。そして、それぞれの段は左から右に見ていく。1番左の列は1歳から7歳までの年齢が示されている。その隣の列には人数が表示されているが、これは、スタート時点で1千人いると仮定した場合の、各年齢で生き残っている人の数である。本当はブレスラウの人口はもっとたくさんいるが、分かりやすくするために、スタート時点を1千人と見なしているわけだ。

 

生命表を使えば、各年齢における死亡率を計算することができる。

 

例えば、2歳で855人、3歳で798人ということは、2歳になった時点から3歳になるまでの間に57人(855人−798人)が死亡することになる。2歳になった時点で855人いて、そのうち57人が3歳になるまでの間に死亡するので、2歳の死亡率は6.6%(57人÷855人)である※3

※3 ハレーの生命表は現代の生命表と異なる点があるため、この計算は厳密には正しくありません。けれども、ここでは生命表のイメージを掴んで頂くことを主眼にしているため、現代の生命表に対して用いられる計算を紹介しています。現代の生命表は、本文記載のような単純な計算で正確な年齢別死亡率が算出できるように工夫されています。

合理的な生命保険料の計算法を初めて考案したドドソン

ハレーは、「生命保険の保険料は、年齢別の死亡率に基づいて設定するべきだ」と主張していた。それを実現したのが、ハレーと同じく王立協会の会員だった数学者ジェームズ・ドドソン(1710~1757)である。ドドソンは、ハレーの先行研究を参考にして、独自の生命表を作成した。そして、その生命表を用いて、年齢別の死亡率に基づいた合理的な生命保険料の計算方法を世界で初めて考案したのである。

 

ドドソンの業績に基づいて、世界初の科学的な生命保険会社エクイタブル・ソサエティが誕生した。エクイタブル・ソサエティーが革命的だったのは、現代の生命保険会社も導入している以下のような制度を初めて取り入れたことだった。

 

1年齢別の死亡率に基づいた合理的な保険料の設定

2申込者に対する医学的審査の導入

3最高保険金額の制限

 

これらの制度は、生命保険に入ったことのある人にはおなじみのものである。でも、なぜ革命的なのだろうか? まず制度1については、先ほど説明した通りである。エクイタブル・ソサエティ以前の保険制度は、科学性・合理性に欠けるものだった。それが、エクイタブル・ソサエティの誕生によって変わった。彼らは、ドドソンが考案した保険料計算方式を導入したのだ。

 

つまり、人間の死亡率という客観的なデータに基づいて、「この年齢の人はこれくらいの確率で死亡する。ということは、死亡保険金がこのくらい出ていくはずだから、これくらい保険料をもらう必要がある」というふうに保険料を合理的に算出する方式を導入したのである。

「大数の法則」がわかれば、世の中のすべてがわかる!

「大数の法則」がわかれば、世の中のすべてがわかる!

冨島 佑允

ウェッジ

大数の法則とは、「1つ1つは予想が難しい物事も、それらが沢山寄せ集まると、全体としての振る舞いは安定する」というものだ。 たとえば、コイン投げを数多く繰り返すことによって表の出る回数は1/2に近づく。数多くの試行…

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