前回は、定年後に実際に起業した著者のエピソードを紹介しました。今回は、シニア人材が起業する会社の「理想像」について見ていきます。

ノルマや競争がない、いい意味での「ゆるい」会社

私は「うちの会社は、ゆるい会社です」とよく言っています。

 

ゆるい会社というのは、ダラダラと仕事をしている会社とか、ルールのない会社という意味ではありません。売上のノルマもないし、社員同士を競争させることもない、自分で売りたくない商品は売らなくてもいいという社風を、私は「ゆるい会社」と表現しています。

 

シルバー世代の人たちは、相手を尊重しながらやっていく余裕のようなものを持っています。だから、むやみに競争して相手に勝とうとしません。そこが若い人と少々違うところです。

 

私の会社には、さまざまな分野の専門家が集まっていますから、お互いに一目置いて、皆が相手を尊重して意見もソフトに、言われたほうも素直に聞いています。もちろん、自分の意見がきちんと言える雰囲気もあります。

 

会社をやってみて分かったことは、一生懸命働いてきた人でも、なんとなく心残りがあるということです。私自身もそうでしたが、「本当に完全燃焼したか?」と自分自身に問うと、そうでもないという人が多いのです。

 

サラリーマンなら誰でも、我慢してやってきた仕事もあるし、好きでもないこと、やりたくない仕事もやらなくてはなりません。自分がやりたい仕事は別の人に取られてしまった、望んでいた部署に配属されなかったという満足できない気持ちを抱えて定年を迎えた人もいます。

 

だから、定年後は他人に邪魔されずに、自分がやりたかった仕事をやってみたい、ノルマに縛られずに自分のペースで仕事をしたいという人は多いのです。そういう人には、ぜひ仕事を続けて社会に貢献してもらいたいというのが、私の考えです。

学歴は不要!? 重要なのは「人格の良さ」

やはり、単なる自己満足では意味がありませんから、私の経営する会社への転職を躊躇している人には「もうちょっと社会に恩返ししてみたらどうですか?」というのが、私の誘い文句です。

 

なかには、「学歴がなくて、得意分野がなくても大丈夫ですか?」と心配される方もいますが、人格さえ良ければ問題ありません。仕事を覚えてもらえるのであれば、その業務が未経験でもバックアップできます。勉強など何歳からでもできますから、大事なのはスキルよりも人間的な魅力です。

 

とはいえ、勉強といっても、そんなに難しいものではありません。そもそも、人のやる仕事なんて、難しいことは一つもないのです。

 

銀行の仕事で難しい仕事などないと思っていましたし、どんな仕事でも勉強すればできるようになるのですから、難しい仕事はほとんどないと、私は若いときから思っていました。

 

反対に、「私には、まだ市場価値がある」という思いがあまり前面に出てくると、私の経営する会社ではやりづらい部分があります。

 

少々表現が悪いかもしれませんが、私が考える理想の会社は、社員にとって、ある時は遊び場、ある時は仕事場になる場所です。人間は歳をとってくると、段々とどこかに属したいという気持ちが強くなります。シニアになってから同窓会が多くなるのも、そういう思いがあるからでしょう。

 

私は、会社をつくることで、そういうニーズに応えたいと考えています。私の会社に来てくださった人に、「この会社に来てよかったな」「ああ、やっていてよかったな」と思ってもらうのが、私にとっては最高の喜びです。

 

利益よりもやりがい、生きがいを重視するゆるい会社なので、自分の市場価値を認めてもらおうという気持ちが強い方には、物足りない職場でしょう。

本連載は、2017年5月29日刊行の書籍『シニア人材という希望』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

シニア人材という希望

シニア人材という希望

中原 千明

幻冬舎メディアコンサルティング

超高齢社会の到来とともに、日本人の働き方は大きく変わる――。 都市銀行でマネジメント職を歴任。定年後に起業し、多数のシニア人材を雇用する経営者が語る“新しい労働の在り方"とは? 2013年4月1日、高年齢者雇用安定…

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