60歳以上のシニア人材が「生涯現役」であるために、サラリーマンとして雇用されるのではなく、「起業する」というのも一つの方法です。そこにはシニアならではの成功論が存在します。本記事では、60歳以上での起業で意識したい「会社の育て方」を見ていきます。

起業するなら「小さく生んで大きく育てる」

定年退職後も仕事を続けるため、サラリーマンとして転職するのではなく、自ら社長になって起業をするというのは一つの道です。私自身も銀行を辞め、別の会社に転職するのではなく、自分で起業する道を選びました。

 

これから自分で起業をしようと考えているシニアの皆さんに、私からできるアドバイスは「小さく生んで大きく育てなさい」ということです。

 

会社として起業するのであれば、初めは「3~5年間続けられればいいかな」くらいの気持ちのほうがいいと思います。10年後も20年後も続けようなどと考えないほうがいいでしょう。

 

私の場合、目標は5年でした。それぐらいの気持ちでやっていたら、5年続いた時点で「ここまで続いたのだから、もう少しやってみるか」という気になれます。うまくいかなかったとしても、「5年は持ったし、いいか」と会社を閉じられると思います。

 

けれども、最初から10年以上を目指していたら、途中で息切れしてしまうでしょう。う64まくいかなかったときにも、「もう少し頑張ろう」とズルズルと引き延ばしてしまうのではないでしょうか。シニア世代なら、体力的にも精神的にも消耗するだけです。

60歳以上での起業の場合、「儲け」は考えない

もう一つは、60歳以上の人が会社を立ち上げるときは、「すぐに収益を上げようとか、儲けようとは考えないほうがいい」ということです。収益を上げようと考えると、無茶な投資をするリスクが高くなります。

 

若者であれば、勢いで起業をして失敗したとしてもやり直す時間はありますが、60歳を過ぎて失敗すると、もうあとがありません。だから、いつでも後戻りできる範囲に身を置いておくのが安全策です。

 

野球で言うと、盗塁しようとピッチャーを見ながらリードするときは、牽けん制球を投げられても確実に戻れる範囲を出ないようにします。だいたいはベースから4歩か5歩ぐらいまでというところでしょうか。本当に盗塁するときは、さらにもう一歩出ないと成功できないこともあるのですが、あえてリスクを冒さないで、いつでも戻れる範囲でチャンスを待つというのも戦略の一つです。

 

資金が潤沢にあればいろいろな展開も考えられますが、出資者がほぼ自分一人で資金が限られているという状況であれば、いつ会社を畳んでもいいぐらいのつもりで始めるのが堅実な方法です。目安としては、少なくとも2年、いろいろな経費をかけても持ちこたえられるぐらいの自己資金を用意して起業するのが安全策です。

 

銀行からお金を借りる方法もありますが、借りられるかどうかは分かりません。もし借りられたとしても当然毎月返済しなければいけないので、利益が出ていなければすぐに赤字になります。できれば借金をしないで、かつ2年間ぐらいの資金をストックしながら売上計画を立てていくのが定石です。

 

借金をして余裕がなくなると、人はいい仕事ができなくなります。健全な体に健全な精神が宿るのと一緒で、余裕がなくなり、金策ばかりに集中するといい考えも浮かばなくなります。したがって、いざとなったらつぎ込めるくらいの資金をプールしておかないと起業は失敗してしまうのです。

会社を立ち上げたら「翌日から仕事がある」状態にする

しかし、いきなり売上1億円などという目標を立てるのは、リスクに対して実現できる可能性が低過ぎますから、1年目、2年目は、とにかく無理がない目標を立てるのが賢明です。

 

それに加えて、「立ち上げたら翌日からすぐに仕事があるような状態にしておくこと」。すぐに仕事を始めたとしても、お金が入ってくるのはずっと先になりますから、それまでは利益がないどころか、まったくお金が入ってこない状況も考えられます。

 

仕事がなければ、あっという間に資金繰りが厳しくなるのが、サラリーマンとの大きな違いです。定年退職後に起業を考えている人は、自分の会社を立ち上げたらすぐに仕事を始められるように、サラリーマンとして勤めているうちにある程度までは準備をしておくことが必須でしょう。そのためにはネットワークも築いておかなくてはなりません。

なぜ「趣味」を仕事にするべきではないのか?

最後に、「好きなことをやってはいけない」という点も付け加えておきましょう。

 

やはり、仕事は「こういうことをやってくれないか?」と人からお願いされたほうがいいのです。ビジネスは誰かに求められて初めて成り立つものです。

 

「自分が好きな商品だから買ってくれるに違いない」と思っていても、買ってもらえるとは限らないでしょう。往々にして、自分の好みを中心に考えると、採算性を度外視してしまいます。その結果、あっという間にビジネスが立ち行かなくなります。

 

好きなことを仕事にしたいと、退職金をつぎ込んでそば屋などを始める人もいますが、起業としては賛成できません。まず、修業をして何十年も店を続けてきた同業者に敵かなうわけがありませんし、これだけ多くの飲食店があるなかで「好きだから」という理由だけで立ち上げた店が生き残っていくのは難しいでしょう。そもそも、店を開いたら接客や会計、掃除など、やりたくない仕事もやらなければならなくなります。

 

自分の趣味で、一人でやる分には構わないと思いますが、経営者として人を雇う立場になると責任が生まれますから、趣味を楽しむどころではなくなってしまいます。そういう意味で、趣味は仕事にするべきではないというのが私の考えです。

 

60歳か65歳で起業をするとしたら、続けられるのは長くてもせいぜい15年か20年ですから、のんびり構えている暇はありません。その間に会社を黒字にして社会に貢献できるようなことを成し遂げるには、猛スピードで仕事をするくらいの気持ちが必要でしょう。

 

 

中原 千明

基金運営研究所株式会社 代表
一般社団法人年金基金運営相談センター 理事長
株式会社CN総合コンサルティング 代表

 

本連載は、2017年5月29日刊行の書籍『シニア人材という希望』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

シニア人材という希望

シニア人材という希望

中原 千明

幻冬舎メディアコンサルティング

超高齢社会の到来とともに、日本人の働き方は大きく変わる――。 都市銀行でマネジメント職を歴任。定年後に起業し、多数のシニア人材を雇用する経営者が語る“新しい労働の在り方"とは? 2013年4月1日、高年齢者雇用安定…

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