顧客の取引件数が鍵・・・「セブン銀行」独自の収益モデル

今回は、顧客の取引件数で収入が決まる「セブン銀行」独自の収益モデルを見ていきます。※本連載では、日本証券アナリスト協会検定会員である松下敏之氏、高田裕氏の著書『外資系アナリストが本当に使っている ファンダメンタル分析の手法と実例』(プチ・レトル株式会社)の中から一部を抜粋し、セブン銀行(証券番号:8410)の株式分析を練習問題形式で解説します。

収入源は提携金融機関からの「手数料」

前回の続きです。

 

前述のように、セブン銀行の主要事業である国内ATM運営ビジネスは、提携金融機関からの手数料が収入源となっています。セブン銀行のディスクロージャー誌に掲載されていた下記図表がわかりやすいので、見てみましょう。

 

[図表]セブン銀行のATMサービスのビジネスモデル

(出典:セブン銀行『ディスクロージャー誌(2016)』)
(出典:セブン銀行『ディスクロージャー誌(2016)』)

 

私たちのような一般の顧客Eさんが、セブン銀行のATMを使った場合を考えましょう。Eさんは、預金を基本的にF銀行に預けているとします。Eさんがセブン銀行のATMを使ってF銀行の口座から預金を引き出しました。この時、Eさんが支払ったATM利用手数料はセブン銀行の収益になるのではなく、F銀行の収入になります。一方、F銀行は、セブン銀行にATMを使用させてもらった対価として、ATM受入手数料を支払います。このATM受入手数料がセブン銀行の主要な収入になります。預金を引き出したEさんが支払うATM利用手数料が0円だったとしても、セブン銀行は収入を得られる仕組みになっています。つまり、顧客の取引件数に応じて収入が決まる構造を持っているということです。

 

セブン銀行の決算説明資料を見ると、現在、1取引あたりの平均的な手数料単価は約130円となっています。推移も見ることができます。ただし、あくまで平均です。恐らく、預金入金や引き出し等の取引種類、銀行かノンバンクか、といった金融機関の種類、各銀行の契約形態によって、単価は異なっていると推測できます。ノンバンクとは、主に消費者金融です。

 

繰り返しになりますが、セブン銀行は通常の銀行のような融資による収入が中心ではありません。融資業務は、景気が悪い時に貸出企業の信用リスクが高まることに加えて、企業の資金需要が減ること等を通じて、景気の変動を受けやすいビジネスモデルです。一方で、融資が中心ではないセブン銀行の収益構造は、景気変動の影響を受けにくいビジネスモデルと言えるでしょう。このように景気変動の影響を受けにくいビジネスは、「業績の見通しが立てやすい」、「株主資本コストが小さくなる(低いリスク認識)」という大きく2つの特徴があります。

 

ATM設置台数の増加に応じ、売上・利益ともに上昇

このビジネスのコストは、ATM設置台数を所与とすると、固定費が中心になります。主なコストは、(1)減価償却費(ATMの購入費用に関するもの)、(2)ATMをセブンイレブンに置いていることによる賃料、(3)ATMに現金を補充するような業務を警備会社に委託する費用です。

 

(1)の減価償却費は、持っているATMの台数に応じて変わります。(2)の賃料は、セブン銀行の決算説明資料では「ATM設置支払手数料」となっていますが、これもATMを何台置いているのかによって決まるはずです※1

 

※1 厳密に考えると、どの場所に置いているかによって、1 台あたりの支払い単価は変わるはずです。たとえば東京駅の駅中にATM のスペースを借りた場合、賃料は高くなるでしょう。アナリストは細かく分けて前提を置きながら分析するのが通常ですが、本書では「ATM の台数に応じて決まる」という程度にしておきましょう。

 

(3)の警備会社への業務委託費用に関しては、契約形態が不明なため詳細はわかりませんが、恐らくATMの台数に応じて決まっていると考えればいいと思います。以上の(1)~(3)より、セブン銀行の主要なコストは、ATMを設置していれば常にかかる固定費です。ですから、何人の顧客が1台あたり何件の取引を行ったかによって、コストの金額は変わりません。つまり、コストはほとんど一定で、顧客による取引件数が増えれば増えるほど利益が大きくなるということです※2

 

※2 もちろん、長期的な視点から見ると、これらのコストも売上も、ATM の設置台数に応じて決まっているので、「短期的に見れば限界利益率はかなり高い」と言ったほうが正確かもしれません。

 

以上から、ATM1台あたりの取引件数が安定しているなら、ATM設置台数の増加に応じて、売上と利益はともに上昇していく、という収益構造になっていることがわかります。

 

本連載は、2017年7月1日刊行の書籍『外資系アナリストが本当に使っている ファンダメンタル分析の手法と実例』(プチ・レトル株式会社)から一部を抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。
掲載している情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。投資はご自分の判断で行ってください。本連載を利用したことによるいかなる損害などについても、著者ならびに本連載制作関係者はその責を負いません。

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連載外資系アナリストが本当に使っている「ファンダメンタル分析」の手法と実例

日本証券アナリスト協会検定会員

兵庫県出身。
中央大学卒業後、国内系の投信投資顧問会社を経て、現在はシンガポールの運用会社にてアナリスト業務を行う。

著者紹介

日本証券アナリスト協会検定会員

広島県出身。
同志社大学卒業後、大阪大学修士課程修了。
広島銀行を経て、欧州系の投資運用会社に入社。
企業調査・運用業務を行う(執筆当時)。
一橋大学国際企業戦略研究科専門職学位課程修了(経営修士)。

著者紹介

外資系アナリストが本当に使っている ファンダメンタル分析の手法と実例

外資系アナリストが本当に使っている ファンダメンタル分析の手法と実例

松下 敏之,高田 裕

プチ・レトル株式会社

個人投資家向けに紹介するには難易度の高かったファンダメンタル分析の手法を、現役・外資系運用会社アナリストの著者が、ケーススタディを通して徹底解説。 実在の企業を取り上げて、著者がスクリーニングからバリュエーシ…

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