今回は、セブン銀行の経常費用等をシナリオ別に予測します。※本連載では、日本証券アナリスト協会検定会員である松下敏之氏、高田裕氏の著書『外資系アナリストが本当に使っている ファンダメンタル分析の手法と実例』(プチ・レトル株式会社)の中から一部を抜粋し、セブン銀行(証券番号:8410)の株式分析を練習問題形式で解説します。

「予測経常収益」から「経常費用」を引くと・・・

前回の続きです。

 

では、次に経常費用を予測し、それを予測経常収益から引いて、経常利益を導きます。経常費用を予測する場合、一つひとつの費用項目ごとに想定を置いていくことが大切です。変動費の場合は、「対売上の比率」で想定を置いていきます。固定費は、その項目ごとに主要な変動要因を考えながら、予測していきます。

 

セブン銀行の経常費用の多くは固定費であり、売上金額ではなく、新たに設置したATM設置台数に応じて変動する項目が多いはずです。売上の予測の際に想定した「ATM設置台数」を使って、「ATMの1台あたり費用増」の前提を置き、各経常費用を予測するのがいいと思います。

 

本連載では、シナリオA、シナリオBともに、「2016年3月期の変動幅が今後5年間変わらない」と予想しています。ただし、第4世代のATMが導入されることを想定するのであれば、予想を変更する必要があります。

 

図表1のシナリオAを見てください。ハイライトの箇所が前提としている部分です。予測された利益率を見てみると、利益率は低下傾向になっています。これは、ATMの「1台あたりの費用」は変わらないという前提にしている一方、「1台あたり取引件数」の低下によって「1台あたり売上」は低下していることによります。売上が減っているにもかかわらず、固定費は一定で減らないため、利益率が低下しています。経常利益率は、2016年3月期の35%から2022年3月期には34%に低下する予測となっています。

 

[図表1]シナリオA

※表上部の年は決算期を表しています(2013 は2013 年3 月期)
※表上部の年は決算期を表しています(2013は2013年3月期)

 

次に、図表2のシナリオBを見てください。

 

[図表2]シナリオB

※表上部の年は決算期を表しています(2013 は2013 年3 月期)
※表上部の年は決算期を表しています(2013は2013年3月期)

 

シナリオAとシナリオBでATM設置台数の見通しを変えていないことから、予測された費用はシナリオAと同じ金額となっています。しかし、手数料受入単価の上昇を見込んでいることから、シナリオAよりも売上の上昇幅は大きくなっています。予測された利益率を見てみると、大きく上昇しているのがわかります。経常利益率は、2016年3月期の経常利益率の35%から、2022年3月期には43%まで上昇する見通しになっています。これは、ATMの「1台あたりの費用」が変わらない前提にしている中で、「ATM1台あたり売上」が大きく上昇していることによります。売上が増えているにもかかわらず、固定費は一定で増えないからです。

 

シナリオAとシナリオBの違いからわかるように、限界利益率の高いビジネスにおける利益率は、状況によって大きく変動することになります。利益構造を理解することの大切さを認識できたでしょうか。シナリオAとシナリオBのどちらが妥当な予測か、それともどちらも妥当な予測でないかは、各自で考えてみてください。

決算短信の「1ページ目」を参考に業績予想を作成

最後に、DDMで株式価値を評価するために、「配当」と「純利益」の予測をします。今までは単体ベースで予測していたので、連結ベースの業績予想を作りましょう。連結の数字、年間配当額、配当性向は、決算短信の1ページ目に記載されています。

 

前述の通り、セブン銀行は、国内ATMサービス以外にも、アメリカの事業等、子会社を通して大変魅力的な事業を展開しています。現在、米国子会社のFCTIは赤字ですが、事業が軌道に乗れば黒字化は可能だと思います。子会社の分析結果は議論が分かれるところになるでしょう。

 

本連載でセブン銀行を取り上げた理由は、主に「利益構造の分析」を学ぶことでしたので、セブン銀行の子会社の分析は行わず、子会社については2016年3月期の業績が続く前提としました。これは明らかに妥当な予想ではないので、その点は注意してください。

 

また、限界利益率の大切さは理解してもらえたと思いますので、ここではシナリオBは忘れて、シナリオAを元に連結ベースの業績予想を作りましょう。詳細は、図表3を見てください。ハイライトした部分が前提として置いた数値です。単体の当期純利益は、経常利益と同じ前年比で推移するものとしています。この予想数値によると、連結の今後5年間の純利益の年率成長率(CAGR)は、4.2%となります。配当性向は41%が継続すると想定しています。

 

シナリオAでは、今後5年間の純利益の年率成長率(CAGR)は4.2%という予想になりますが、もしシナリオBを妥当な予想と考えるのであれば、年率10%以上の利益成長が期待できることになります。

 

[図表3]

※表上部の年は決算期を表しています(2013 は2013 年3 月期)
※表上部の年は決算期を表しています(2013は2013年3月期)

 

これで、DDMでのバリュエーションに必要な配当と純利益の予想が作成できましたね。

本連載は、2017年7月1日刊行の書籍『外資系アナリストが本当に使っている ファンダメンタル分析の手法と実例』(プチ・レトル株式会社)から一部を抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。
掲載している情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。投資はご自分の判断で行ってください。本連載を利用したことによるいかなる損害などについても、著者ならびに本連載制作関係者はその責を負いません。

外資系アナリストが本当に使っている ファンダメンタル分析の手法と実例

外資系アナリストが本当に使っている ファンダメンタル分析の手法と実例

松下 敏之,高田 裕

プチ・レトル株式会社

個人投資家向けに紹介するには難易度の高かったファンダメンタル分析の手法を、現役・外資系運用会社アナリストの著者が、ケーススタディを通して徹底解説。 実在の企業を取り上げて、著者がスクリーニングからバリュエーシ…

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