「本当に自宅に帰れるのか」を十分に検討
高齢者を自宅や施設へ帰す役目を果たす病院においては、患者を積極的に治療すべきかそうでないかの見極めが必要です。自宅や施設へ患者を「退院」させることに必死になってしまうと、高齢者医療の本質も見失うことがあります。
入院している患者の治療をある程度終えた時、医師はまず、患者それぞれの病状と、家庭環境など個人の事情を考え合わせて、患者にとって「退院」が可能なのか、「入院」を継続しなければならないのかを判断します。
たとえば酸素吸入が必要であっても、在宅酸素療法を使えば自宅で生活できる人もいます。しかし、ひとり暮らしで夜間の酸素吸入の状態を見守る人がいないと危険な患者もいます。そのような場合には、簡単に退院を認めるべきではありません。日常的に酸素吸入が必要なくなるまで入院治療を続けるか、あるいは酸素の管理のできる施設を探す必要があります。
喀痰吸引の頻度の高い患者も、在宅で診ることは困難ですし、受け入れてくれる施設が少ないという問題もあります。
つらい腰痛で歩くことすらできない患者でも、手術やブロック注射を選択しない場合、高度急性期病院に入院させることはできません。しかし、痛みによってトイレに行くのも困難な状況であれば、自宅での生活は不可能です。こうした場合、自宅に帰るまで一定期間介護老人保健施設などに入所してもらい、リハビリをしながら身体を休め、痛みがとれたら自宅へ帰します。
患者がスムーズに自立した生活に戻ることができるように、病院は患者の状態や状況に配慮し、本当に自宅に帰れるかを検討し退院を決めるべきなのです。
[図表1]40歳以上の人が年をとって生活したいと思う場所
[図表2]55歳以上の人が要介護になった時に生活したいと思う場所
[図表3]高齢期に希望する場所で生活するために必要な条件
必要なのは「やさしい医療の提供」という気構え
医療が常に必要な患者であれば、たとえ長期間の入院によって診療報酬が下がってしまったとしても、簡単に退院勧告はすべきではありません。
診療報酬の改定が続き、特に公的補助がない民間の療養型病院の経営は大変苦しい状況になってきています。入院が長期化すれば報酬が減算されるため、超急性期、急性期、回復期の病院では、長期入院患者には退院を促すのが普通です。また慢性期の病院においては、医療区分がつかず、診療報酬の低い患者の転院はなかなか受け入れられないものです。しかし、それでは制度のはざまで行き先をなくした「医療難民」を多く生んでしまいます。
自宅での介護が困難な患者は入院を継続させる。そうした「優しい医療」を提供していくという気構えを、私たち高齢者医療に携わる者は忘れてはならないのです。