今回は、賃貸物件の一括借上契約で注視すべき「借上料率と査定賃料」について見ていきます。※本連載では、フィルコ株式会社 代表取締役・芝辻保宏氏の著書、『賃貸マンション 管理会社VS自主管理』(株式会社澪標)の中から一部を抜粋し、不動産賃貸経営における、「管理会社への委託」と「自主管理」、それぞれのメリット・デメリットを解説します。

査定賃料の料率をあげて、高条件に見せかける管理会社

(1)借上料率と査定賃料

 

他社との競合があると査定賃料の92%、95%などと料率をあげてあたかも条件が良いように見せます。

 

ところが大事なのは料率ではなくて、「査定賃料」にあります。具体的な例を見てみましょう。

 

一棟マンション 2LDK 専有面積50㎡ 総戸数50戸の場合

 

Aマンション
査定賃料 1戸あたり 10万円 査定賃料総額 500万円
借上料率90%:借上賃料 450万円
借上料率95%:借上賃料 475万円


Bマンション
査定賃料 1戸あたり 11万円 査定賃料総額 550万円
借上料率90%:借上賃料 495万円
借上料率95%:借上賃料 522万円

 

借上料率95%でも査定賃料が低ければ当然借上賃料は低くなります。借上料率よりも高い査定賃料を得る方が収入は増えることになります。もちろん査定賃料が高く、借上料率も高ければより良いと言えるでしょう。そもそもなぜ借上料率が90%なのか。

 

一般的に賃貸経営の収支計算をする際には、常に満室で空室がないということはほぼありえませんので、空室発生時の収入減(空室リスク)を考慮し、入居率90%程度で収益計算されます。

 

この入居率をもとに、長期での収益を計算し、建築費用や借入金の返済金額などを考慮し、建築計画または賃貸経営計画が企画されます。

 

ここで借上料率が90%となると、空室リスクを考慮した上での計画上はほとんど事業主様のデメリットが少ないように感じれるのではないでしょうか。

年間およそ10~20%の割合で「空室」が発生!?

経験上、建築後の年数にもよりますが、年間でおよそ10%から20%の割合で空室が発生します。50戸の物件だと年間で5戸から10戸は空室が出ることになります。ただし、学生専用マンションなどは契約が特殊で卒業・入学のシーズンに一気に入れ替わることもあります。

 

この空室を成約に結びつけるにはどれくらいの日数がかかるのか。シーズンにもよりますが1〜3ヶ月の間には成約となり、新たな収入源となります。

 

では、仮に年間10戸の空室が発生し、空室期間を3ヶ月とした場合、年間の総収入はどうなるでしょうか。

 

a.1戸あたり月額賃料 10万円×50戸=500万円×12ヶ月=年間6,000万円
(空室発生の収入減)10戸×10万円×3(ヶ月)=▲300万円
 年間収入 6,000万円-300万円=5,700万円


b.90%借上の場合
6,000万円×90%=5,400万円

 

a-bの差額300万円

 

この例の場合ですと借上契約をしない場合のaは年間通じての入居率は95%となります。

 

当然空室数が増えたり、空室期間が長引けばこの年間入居率は下がりますが、逆に空室数が減り、空室期間を短くできれば年間入居率は上がります。

 

結果的に現実的な入居率を考えると90%を確保することは決して難しいことはないと言えます。

本連載は、2017年6月10日刊行の書籍『賃貸マンション 管理会社VS自主管理』(株式会社澪標)から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には一部対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

賃貸マンション 管理会社VS自主管理 ~大空室時代を生き抜く賃貸経営術~

賃貸マンション 管理会社VS自主管理 ~大空室時代を生き抜く賃貸経営術~

芝辻 保宏

株式会社澪標

人口の減少、住宅の供給過多の中、不動産賃貸経営はより一層厳しい環境にさらされています。 これからの賃貸経営の勝ち組になるにはどうすればいいのか。不動産業界に20年以上携わってきた筆者が不動産賃貸経営における悩みを…

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