妻や家族に大きな「隠しごと」を持っている経営者は少なくありません。口を固く閉ざしておけば大丈夫という方もいるかもしれませんが、相続が発生すると事情が一変します。本連載では、そんな隠しごとがあるオーナー社長の相続対策について見ていきます。

妻や家族への「隠しごと」が社長の相続を複雑にする

社長の相続は一般的なサラリーマンの方々の相続に比べ、トラブルが起きる危険をたくさんはらんでいます。相続財産が多く、しかもその大半が分けにくい自社株や事業用資産などで占められているためです。

 

まず、相続財産のうちの現預金の比率が小さいので、相続税が支払えないというトラブルが多く見られます。また、足りている場合でも、後継者が一番大きな財産である自社株のほとんどを取得するため、後継者以外の相続人の相続財産が非常に少額になることでもトラブルが発生します。

 

そういったことから生前に相続対策を行っておかないと、相続が原因で家族同士が財産を巡り争う「争族」に変じたり、事業承継がうまくいかず会社が行き詰まったりと、容易に大きなトラブルが起きてしまうのです。そんな状況を防ぐため、社長は相続に対して生前にしっかりとした備えをしておく必要があるのです。

 

それに加え、もう一つ、社長の相続を複雑にする問題があります。

 

本来であれば最も強い絆で結ばれているはずの家族に絶対に言えないこと――隠しごとです。

 

トップとして会社を牽引する人の多くはエネルギーにあふれており、仕事はもちろんプライベートも目いっぱい充実させようとする人物です。さらに比較的自由に使えるお金が多く、望むことを実現しやすいという環境的な要因もあります。こういったことから、家族や従業員には知られたくない、知られるとちょっとまずい秘密を抱える人が少なくありません。

 

秘密にしている事柄の大きさや種類はさまざまですが、どうしても妻には隠し通したいと思っている人が多数派です。その苦労はずいぶん大きなものだと思われます。女性は男性に比べて細かなことによく気が付き、秘密を見破るのが得意です。「勘がいい」と言われるのは、相手のちょっとした仕草や声色の変化などを読み取る力が高いためでしょう。ましてや妻は長年連れ添い、あなたを一番身近に観察してきた女性です。秘密を見破る能力は、ベテランの国税査察官よりも高いかもしれません。

放置すると自身の名誉や家族の心を傷つけることに

さまざまなケースがありますが、社長たちが秘密を隠すためにつぎ込む労力は、事業に要するものと比べても遜色がないように見えることすらあります。ところが、何の対策もせずに相続を迎えたら、精魂を傾けて守ってきた秘密が白日の下にさらされてしまうのです。これまでの努力もまったく無意味なものとなってしまいます。

 

まず、相続の際には相続税の申告をするため、財産のすべてを明らかにする必要があります。これにより、図らずも対策なしの隠しごとが納税という大義の下に露呈してしまうかもしれません。

 

また、遺言がない場合は「遺産の分け方について法定相続人の全員が納得した」ということを示す書面――「遺産分割協議書」を作ることになります。これを作るためには、相続財産のすべてを明らかにするとともに、相続の権利を持つ人「全員」の署名捺印が要るため、たとえば、もし隠し子がいるなら、その存在を妻も含め他の相続人全員が知ることになるのです。

 

相続時まで何も知らないとしたら、家族にとっては大きな衝撃です。隠し子がいたという事実にはもちろん、それ以上に今まで夫が、父親がその事実を隠してきたことに驚き、あきれることでしょう。それまで培ってきた愛情が、いっきに冷めてしまうことになりかねないのです。

 

その他にも隠し財産や借金、人には明かしたくない趣味嗜好なども、対策を打たなければ死後には家族はもちろん、親戚や友人あるいは地域の人たちにまで知られてしまうかもしれません。

 

多くの社長は地域や業界で尊敬を集め、地位を築いてきた方です。「自分はもういないのだからかまわない」と開き直るのは難しいでしょう。また、せっかく築き上げてきた名誉を傷つけるのは、とても残念なことだと思います。また、秘密の種類によっては、遺された妻や子供たちなど、家族が世間から後ろ指をさされて気恥ずかしい思いをするかもしれません。

 

ですから、ある一定の年齢になったら人生を一度総括し、「隠しごと」をどう処理するかを考える必要があります。放置していると事業承継より大きな問題となって自身の名誉や家族の心を傷つけてしまうことでしょう。

本連載は、2015年10月27日刊行の書籍『妻に隠しごとがあるオーナー社長の相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

妻に隠しごとがあるオーナー社長の相続対策

妻に隠しごとがあるオーナー社長の相続対策

佐野 明彦

幻冬舎メディアコンサルティング

どんな男性も妻や家族に隠し続けていることの一つや二つはあるものです。妻からの理解が得にくいと思って秘密にしている趣味、誰にも存在を教えていない預金口座や現金、借金、あるいは愛人や隠し子、さらには彼らが住んでいる…

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