隠し子を認知しなかった社長に起こった相続トラブル。最終回では、隠し子を事業の「後継者」として育てる方法についてみていきます。

隠し子に対して確かな愛情を注ぐためには・・・

前回に引き続き、隠し子を認知しなかった社長に起こった相続トラブルの対策について見ていきます。

 

●対策4 従業員として迎え入れることや別会社の社長にすることを検討してみる

嫡出子に事業を継いでくれる後継者がいない場合には、隠し子をその候補にするという手段もあります。従業員として会社に迎え入れ、経営者として育てていくのです。身近に置いてしっかり育成していくことで、隠し子に対して確かな愛情を注ぐことができます。当然、妻には知られないようさまざまな工夫が必要ですが、愛情に基づく行為だけに隠し子や愛人も協力してくれるでしょう。社外に置いてケアするより、むしろ発覚する危険性は低いかもしれません。

 

よく家族経営会社の二代目社長が悩む、他の社員からの目も気になりません。隠し子に社長の器があるかどうかの見極めは必要ですが、周りの人には実の子供であることがわかりませんので、親族でない人が社長にのぼり詰めたかのように社内に示すことができます。

 

もう一つ考えられるのが、本業とは無関係の別会社を立ち上げて隠し子が社長になって会社を運営するのです。その子供の意思を優先する必要はありますが、事業に意欲があれば検討してもよいでしょう。ただし、いきなり社長の椅子に座っても、若いうちはなかなか経営手腕は期待できないかもしれません。ですから、その間は社長が役員の一人として実質上の経営者となって差配し、安定的な経営を目指すのです。

 

社長にとっては本業の片手間ですから、経営に時間や労力を要する業態は不向きです。賃貸不動産への投資など、あまり従業員を使わず時間をとられない事業を選択するのがよいでしょう。あるいは自社製品の販売を委託できるような関連企業や、釣具やファッションアイテムの販売など、社長の趣味と関連する企業などもよいかもしれません。

 

社長の信頼があれば金融機関から有利な金利で融資を受けられますし、人脈を使えば取引先も広がります。一緒に事業を育てる中でさまざまなことを教えて、経営者として育成するようにすれば、その子供自らが経済的に自立できるようになるでしょう。社長にもしものことがあっても生活不安がないため、隠し子も安心できます。また経営者として育成する過程では、一緒に過ごし語り合う時間が自然に増えるので、より確かな愛情を示すことができ、精神面のケアにもつながります。

法律的な親子関係の有無で相続権は異なる

一口に「子」と言ってもいろいろな親子関係があります。「子」とは結婚している両親の間に生まれる嫡出子をイメージすることが多いのですが、最近では結婚していない男女の間に生まれる非嫡出子も増えています。出生総数に対する割合は1970年代後半を底に上昇を続けており、2014年の統計では2.3%となっています(厚生労働省「人口動態調査」より)。

 

非嫡出子の他にも、社長にとって「子」となる立場には、「以前離婚して前妻が引き取った実子」「後妻の連れ子」「養子」などがありますが、それぞれ相続における権利は異なります。

 

相続権の基本となるのは法律的な親子関係の有無です。ですから、もちろん嫡出子には相続権がありますし、実子ではないものの、手続きにより法的に嫡出子の身分を取得した「養子」も相続権を持ちます。また親子関係は離婚や別居によって解消されるものではないので、「以前離婚して前妻が引き取った実子」にも相続権が認められます。

 

一方、これまで解説してきた通り、非嫡出子の場合は「認知」されているかどうかによって相続権の有無が異なります。認知されていれば相続権がありますし、生前認知されていなかったとしても、死後認知の手続きを踏んで裁判所が父子関係を認定すれば、相続権が発生します。

 

また、後妻の連れ子は法律的には「子」ではないので、一緒に暮らして可愛がっていたとしても相続権はありません。相続権を与え、相続税や贈与税の特例の対象とするためには、養子縁組を行う必要があります。

相続権がある「前妻との子供」にも相続対策を実施

前妻との間に子供がいる場合には、前述した通りその子供に相続権があります。幼い頃に別れたきり会ったこともないというケースでも、相続権などの法律的な権利は失われないので注意が必要です。さまざまな事情や思惑があって、前妻との間に子供がいることを今の妻に告げていない社長もいると思いますが、相続が発生すると、法定相続人を特定する過程でその子供も自分が持つ相続権を知ることとなります。

 

相続権に見合う現預金などがあればよいのですが、そうでなければ自社株や事業用資産、自宅などを処分して分割しなければならないこともあり得ます。家族にとっては生活や事業の面で大きなダメージとなるので、生前に相続対策を講じておくことが大切です。具体的には隠し子と同じく、一定の財産を生前贈与することと引き替えに、遺留分を放棄してもらうのも一つの方法でしょう。

 

それと同時に、トラブルを防ぐためには心のケアも大切です。それまでの関わり方に反省すべき点があるなら、そのことを告げて謝罪し愛情や気配りを示すことで、無用のトラブルを避けることができます。なお、前妻が再婚している場合には、実子が再婚相手と養子縁組をしていることがあります。その場合にも実子の相続権は失われず、実父と養父両方に対して相続権を持つことになります。

 

本連載の第9回~最終回で見てきた「隠し子を認知しなかった社長に起こった相続トラブルの対策」としては下記の点に留意し対策することが大切です。

 

【まとめ】
●ハンデを背負わせている分、最大限の愛情を示すことが大切。
●財産を贈与したり、別会社を立てたりすることにより経済的な安心感を持ってもらえると、隠し子も父親の愛情を感じ取ることができる。
●愛情と経済的な援助を受けて心に余裕が生まれると、父親の立場や家族に配慮して、相続や事業承継のもめごとを起こさないこともあり得る。
●隠し子の側には、認知を求める手段として「強制認知請求」と「死後認知請求」といった法的な手続きがある。
●後妻の連れ子には相続権はないため、相続権を与えるためには養子縁組をする必要がある。
●前妻が再婚し、再婚相手が自分の子供と養子縁組していた場合も相続権は消滅しない。
●子供に対しては虚偽のない無条件な愛情を示すべきと考える。

本連載は、2015年10月27日刊行の書籍『妻に隠しごとがあるオーナー社長の相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

妻に隠しごとがあるオーナー社長の相続対策

妻に隠しごとがあるオーナー社長の相続対策

佐野 明彦

幻冬舎メディアコンサルティング

どんな男性も妻や家族に隠し続けていることの一つや二つはあるものです。妻からの理解が得にくいと思って秘密にしている趣味、誰にも存在を教えていない預金口座や現金、借金、あるいは愛人や隠し子、さらには彼らが住んでいる…

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