前回に引き続き、隠し子を認知しなかった社長に起こった相続トラブルについて、こうした事態を防ぐためのポイントを見ていきます。

生前の遺留分放棄には家庭裁判所の許可が必要

前回に引き続き、隠し子を認知しなかった社長に起こった相続トラブルの対策について見ていきます。

 

●対策2 生前贈与などを使って自社株の遺留分を放棄してもらう
認知請求とともにケアしておきたいのが相続権の問題です。これまで解説してきた通り、認知された非嫡出子にも嫡出子とまったく同じ相続権があります。もちろん遺留分もあるので、遺言書でどう指示しても相続財産からその割合に当たる財産を受け取る権利が残ります。

 

その中で気をつけたいのは事業承継のことです。株式や事業用資産を一部でも後継者以外に相続されることは大きな障害になるからです。ただ、余程のことがない限り、その会社の運営をしたことのない子供は、その株式を欲しいと思うことはないでしょう。

 

また、会社の株式については、相続を求めないよう承諾してもらう必要があります。もちろん、そのためにはその子への適切な配慮が必要です。

 

金銭的なことで解決できるわけではありませんが、手元に資金があれば将来的な安心感や余裕につながりますので、年間110万円の非課税枠がある暦年課税方式の贈与を利用するのは一つの方法です。住む場所を確保する方法としては、本連載の第6回で解説した愛人向けの対策と同じように、住んでいるマンションを譲るのもよいでしょう。

 

また、社長の死後は生活費の支給や贈与を続けられなくなるので、実態のある会社を設立して子供が収入を得られるようにしておくという策もあります。とはいえ、会社を運営することはなかなか大変ですので、慎重な対応が必要です。

 

隠し子の心情を和らげるためには母親へのケアも含めた心配りも大切になります。母と子への対策は一体であり、愛を持って十分な経済的なケアを行うとよいでしょう。それら最低限の配慮を示し、社長という立場から事業の円滑な承継のため、隠し子には株式の遺留分の放棄をお願いしましょう。

 

ここで気をつけておきたいのは、相続開始前における遺留分の放棄は相続人本人の意思表示だけではできないということです。遺留分は相続人の権利ですが、相続開始前に放棄する場合には家庭裁判所に申請して許可を受ける必要があります。被相続人や他の相続人などが圧力をかけて、遺留分の放棄を強制する可能性があるためです。遺留分の放棄については、弁護士などの専門家に相談しましょう。

中小企業経営継承円滑化法で事業承継問題を解消

●対策3 中小企業経営承継円滑化法を活用し遺留分のトラブルを防ぐ
十分なケアを行い隠し子の問題をクリアするためには、事業承継に有効な「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(中小企業経営承継円滑化法)」の活用があります。

 

同法は会社の事業承継についてのさまざまな問題を解決するための制度です。その中に規定されている円滑化策の一つに、後継者への贈与株式等に対する遺留分放棄手続きの簡素化があります。

 

前述した通り、遺留分を放棄するためには家庭裁判所への申請が必要です。従来は相続人それぞれが手続きをするよう求められていたため、相続人にとっては特にメリットがないうえに、手間ばかりがかかるというデメリットがありました。「中小企業経営継承円滑化法」の施行により、事業承継者が相続人に代わって申請することが認められるようになったため、同法を活用すれば相続人の手間を省くことが可能です。相続人全員の承認は必要ですが、事業承継者が申請することで会社の株式の遺留分を放棄してもらうことができるのです。

 

隠し子についても十分なケアをした上で申請書類に判をもらい、事業を承継する子供などにだけ事情を説明して手続きすれば、相続時に遺留分を巡ってトラブルが発生することを予防できます。

本連載は、2015年10月27日刊行の書籍『妻に隠しごとがあるオーナー社長の相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

妻に隠しごとがあるオーナー社長の相続対策

妻に隠しごとがあるオーナー社長の相続対策

佐野 明彦

幻冬舎メディアコンサルティング

どんな男性も妻や家族に隠し続けていることの一つや二つはあるものです。妻からの理解が得にくいと思って秘密にしている趣味、誰にも存在を教えていない預金口座や現金、借金、あるいは愛人や隠し子、さらには彼らが住んでいる…

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