前回は、隠し子を認知しなかった社長に起こった相続トラブルを紹介しました。今回は、そうしたトラブルを未然に防ぐための留意点について見ていきます。

最低限の愛情表現として認知や生活費の援助を・・・

前回に引き続き、隠し子を認知しなかった社長の死後に裁判トラブルが起こってしまったケースについて見ていきます。

 

前述のようなトラブルが起きるのは、経済的な理由もありますが、多くの場合、子供に対する愛情が伝わっていないことが原因にあります。一般的な父親であれば子供への愛情があるのは当然ですが、ただ思っているだけでは子供には伝わりません。思い立ったらすぐに行動して認知や生活費の援助を確定させ、しっかりとそのことを伝えておくことが最低限必要だと考えます。

 

正妻やその子供などにとっても、社長の死後に隠し子からの訴えがあれば、社長本人だけでなく、その愛人と隠し子にもひどい怒りを覚えるでしょう。ありえませんが、もし生き返って家族の心の痛みを知ると後悔するはずです。

 

死後に隠し子から認知請求がなされたら、正妻側からも不倫相手である隠し子の母親を訴える場合があり得ます。時効など複雑な事由は絡みますが、大変な騒動となることは間違いありません。懺悔をするなら、生前の相続対策を十分にしておくことが大切です。

法律的な親子関係を第三者に示す方法とは?

今回の事例ではあまり関係ありませんが、「本当の子供かどうか」が問題となる場合があります。法律的には「本当の母親かどうか」という点は疑いがありませんが「本当の父親かどうか」は第三者からはわかりません。そのため、法的な効力をもつ「認知」という手続きがあるのです。

 

認知以外の方法で父子関係が認められるには「嫡出推定」という方法があります。嫡出推定とは、生まれてきた状況などから「その男性の子供に違いない」と推定することです。

 

たとえば結婚しているというのは「嫡出推定」が成立する大きな要素です。ただしこれについても細かな規定があり、民法772条では結婚してから200日以内に生まれた子供については「嫡出推定」を行わないことになっています。

 

つまり法律をそのまま適用すると、いわゆる「できちゃった婚」の場合には、夫はその子の父親だとは推定されない可能性があるのです。これは妻が結婚前に付き合っていた男性がいるかもしれないということを排除できないからです(いろいろな判例があり法律家にお任せする微妙な分野になりますが、父子関係に争いがなければ、現実的には結婚している二人の子供となるでしょう)。

 

このように、法で定められた条件に当てはまれば「嫡出推定」が適用されます。そうでない場合には、法律的な父子関係を結ぶために「認知届の提出」という手続きを取る必要がでてきます。非嫡出子は「嫡出推定」に必要な条件に当てはまらないため、父親の認知がなければ父子とは認められないのです。こちらの場合も細かな条件はありますが、父親側にその意思があれば認知は簡単にできます。役所に認知届を提出し受理されれば戸籍に父親として記載され、法的に正式な父子と認定されます。

 

認知して父子関係が成立すると、出生したときに遡って法律上の親子関係に基づく「相続権」や「扶養義務」が発生します。非摘出子であってもこの権利関係は嫡出子と同じです。一般的に母子家庭の生活は不安定なものです。側にいて一緒に生活できないのであれば、最低でも認知という形で気持ちを母子に示すことが必要です。相続はそこからスタートとなります。

本連載は、2015年10月27日刊行の書籍『妻に隠しごとがあるオーナー社長の相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

妻に隠しごとがあるオーナー社長の相続対策

妻に隠しごとがあるオーナー社長の相続対策

佐野 明彦

幻冬舎メディアコンサルティング

どんな男性も妻や家族に隠し続けていることの一つや二つはあるものです。妻からの理解が得にくいと思って秘密にしている趣味、誰にも存在を教えていない預金口座や現金、借金、あるいは愛人や隠し子、さらには彼らが住んでいる…

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