聞きなれない「エンダウメント」という言葉ですが、この「エンダウメント」を活用した投資戦略を練ることで、大きなリターンを得ることが可能となります。本連載では、株式会社GCIアセット・マネジメント、投資信託事業グループの執行役員である太田創氏が、「米国名門大学のエンダウメント投資戦略」とは何かを、初心者にもわかりやすく説明します。

エンダウメント=「米国名門大学の基金」

“エンダウメント”(endowment)という言葉は、読者のみなさんにはまだ聞きなれない言葉かもしれません。エンダウメントはもともと英語で“寄付する、寄贈する”といった意味で、資産運用の世界ではそれが転じて米国名門大学の基金を指すようになりました。

 

 

では、なぜ米国大学基金が寄付という意味を持つエンダウメントと呼ばれるようになったのでしょう。それは、米国では多くの大学が卒業生や関係者から寄付金を得て、大学経営を行っているからです(以下の図表1を参照)。

 

[図表1]米国大学エンダウメントの仕組み

 

寄付金ですので返済義務はありませんが、各エンダウメントはその寄付金を半永久的に運用し、大学の財務を健全に運営していかなければならない義務があるのが特徴です。

 

特に、日本でもよく知られているハーバード大学やイェール大学などは、その運用資産が数兆円にもなり、毎年の寄付金も数十億円以上の規模になります。こうした大規模な大学には投資本部(Investment Office)があり、運用目標の策定、運用資産や運用者の選定を行い、他の機関投資家同様、毎年着実にリターンを上げているのです。

 

また、全米の大学には約800のエンダウメントがあり、全体での運用資産規模は50~60兆円と言われています。このように、エンダウメントは投資主体として米国のみならずグローバルに注目されており、投資のプロ集団として認識されています。

リターンを得る手法は「長期グローバル分散投資」

では、エンダウメントはどのように運用されているのか見ていきましょう。

 

<エンダウメントの基本的な運用方針>

 

(1)長期投資

エンダウメントは寄付金を原資とし、返済期限のない半永久的な資産を運用しています。そのため、短期的な市場の動きに過剰反応することなく、頻繁な売買を回避して取引コストを抑制することにより、長期的な観点で効率的な運用成果を追求します。

 

(2)グローバル分散投資

上の図表1にもあるように、投資対象資産は株式や債券といった伝統的資産だけではなく、不動産(実物資産)、プライベートエクイティ(未公開株式)、ヘッジファンドなどのオルタナティブ投資に分散投資を行います。これは予想されるリスクに対するリターンの最大化を目指すためです。

 

(3)オルタナティブ投資を活用する意味

オルタナティブ投資は、リターン特性が株式や債券などの伝統的資産とは異なります。オルタナティブ投資を組み入れることで、ポートフォリオのさらなるリスク抑制とリターンの向上を図っています。前述のとおり、エンダウメントは流動性が低い実物資産や未公開株式にも積極的に運用します。

 

 

(4)個別戦略の運用は外部委託

エンダウメント自身は運用目標やリスク・リターン値の策定を行いますが、実際の運用は外部の資産運用会社に運用を委託します。かつては運用を内製化する動きもありましたが、現在では外部委託することにより運用効率の向上を図っていると考えられています。いわば、エンダウメント自身がファンド・オブ・ファンズのような役割を担っているのです。

 

このように、エンダウメントは“長期グローバル分散投資”というオーソドックスな手法を踏襲することで、高いリターンを上げてきています。以下の図表2はハーバード大学とイェール大学の過去10年間のパフォーマンスですが、いずれも米国株(S&P500指数)を凌駕しているのです。

 

[図表2]過去10年間のエンダウメントの累積運用実績:ハーバード大学/イェール大学

(注)ハーバード大学、S&P500は2016年6月末現在。イェール大学は2015年6月末現在。米ドルベース)
(注)ハーバード大学、S&P500は2016年6月末現在。イェール大学は2015年6月末現在。米ドルベース

 

次回のコラムでは、エンダウメントのポートフォリオの具体的な内容についてお話ししたいと思います。

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