今回は、外資企業の中国への進出形態の種類とその概要を見ていきます。※製造業やサービス業など、多くの外資企業が進出する中国市場。本連載では、中国ビジネスコンサルタントで、Mizuno Consultancy Holdings Limited代表取締役社長・水野真澄氏の著書、『中国ビジネス投資Q&A』(株式会社チェイス・チャイナ)の中から一部を抜粋し、中国ビジネス展開に関する疑問をQ&A方式を紹介します。

外国企業の大部分が選択する三資企業と駐在員事務所

Question 外国企業の中国進出形態

外国企業が中国に進出する場合、その形態はどの様に決定すればよいですか?また、形態によるメリット・デメリットはありますか?

 

Point

●外国企業が中国進出する形態は、法人形態(三資企業、株式会社)、支店、駐在員事務所、パートナーシップがあるが、大部分は三資企業(独資、中外合資、中外合作)か駐在員事務所(常駐代表処)を選択する。

 

●外国企業の支店は、実務運用上、金融機関しか登記が認められず、それ以外の業種には選択肢とはならない。

 

Answer

外国企業(中国非居住者)が中国に進出する場合にはどの様な形態が考えられるでしょうか。

 

中国進出形態を分類する場合、どの点に着目するかで分類方法は変わってきます。

 

会計・税務上の国際的な分類方法を用いれば、法人・支店・駐在員事務所・パートナーシップという分類が先ず考えられます。

 

一方、中国式の分類方法では、独資企業(中国語:外資企業)、中外合資企業、中外合作企業、外資株式会社(中国語:外商投資股份有限公司)、分公司、常駐代表処、パートナシップ(中国語:外商投資合伙企業)という分類が考えられます。

 

但し、一般的な選択肢は、独資企業、中外合資企業、中外合作企業、駐在員事務所となりますので、各々の特徴と国際的な分類方法との関係を解説します。

進出企業の各形態ごとの「メリット・デメリット」

1.外商投資企業(以下「外資企業」と記載します)

中国における外資企業とは、外国企業の出資が25%以上となる企業を指すと一般的には理解されています。これは、中外合資企業法、中外合作企業法実施細則に、「外国出資者の出資比率は一般的に25%を下回らない」と規定されているためです。

 

ただ、これは外資企業設立に際して原則的に25%以上の出資を要求する規定(25%未満の外国出資を認めないという、一定の出資ノルマ)でしたが、その後の時代変化(外資規制の緩和、組織変更の増加など)から、外国出資25%未満の合弁企業が多数存在する様になりました。この現実を踏まえて、「外商投資企業の審査・登記・外貨・税収管理の強化に関する問題の通知(外経貿法発[2002]575号)」が公布され、外国出資25%未満の外資企業という分類が生まれました。

 

外国出資25%未満の外資企業とは、外資企業としての管理・制限は受けるものの、外資優遇措置の適用対象外となる分類です。結果として、出資比率にかかわらず、外国企業が数%でも出資する企業は外資企業となります。

 

尚、2008年の企業所得税法改定前は、外資企業に対しては多種の優遇税制が認められていましたが、現在では廃止されています。よって、現時点での外資企業優遇は、奨励分類外資企業に対する設備免税輸入措置(関税免除措置)程度となっています。

 

① 独資企業

独資企業は、中国語で外資企業と呼称されますが(独資企業法は、中国語では外資企業法)、この表記は外商投資企業と紛らわしいため、本書では「独資企業」で統一します。

 

独資企業とは、外国資本100%の外資企業を指します。全てが外国出資である、という点に基づく分類ですので、出資者が一社の場合も複数の場合(独資合弁)も、中国資本が入っていなければ独資企業となります。外資規制が過去数十年にわたり緩和されてきており、独資企業に対する制限は少なくなっていますが、まだ独資形態では設立が認められない業種も残っています。

 

因みに過去には、独資企業に対して50%の輸出割合が義務付けられていましたが、2000年の独資企業法の改正により撤廃されています。現在の独資企業法実施細則にも、「輸出を奨励する」という内容は残されていますが、中国の政策変更により、輸出がそれ程重視されなくなってきているため、この点は実務上あまり影響がない様です。

 

独資企業は文字通り中国資本のない企業ですので、中国側出資者との軋轢がなく、自由な意思決定を行うことが可能です。一方、中国側の販売網・ノウハウの活用に制限が生じる点があるため、1980年代には少数(1988年までは外資企業全体の10%未満の比率)でしたが、その後、年々比率が上がり、2000年には過半数を越えています(中国対外貿易経済年鑑)。

 

② 中外合資企業

外国投資家と中国投資家との合弁企業であり、出資比率に応じて利益の分配、リスクの負担を行う形態です。

 

合資企業のメリット・デメリットは独資企業の反対で、中国側の人脈・ノウハウを活用しやすい反面、意思決定において中国側出資者と軋轢が生じる可能性がある、というものです。何れにしても、中国側出資者の良し悪しが、事業の成否に重要な影響を与えますので、信頼できるパートナーがいない場合は、この形態を選択するのはやめた方がよいでしょう。

 

外国出資者と中国出資者がそれぞれ出資の何割を占めるべきかについては、一概にはいえませんので、出資者の機能、相互の信頼度、その他の要素を総合的に勘案して決定すべきといえます。

 

尚、定款変更、期前解散、増減資、合併・分割については、董事会の満場一致の決議が義務付けられているため(中外合資企業法実施条例)、出資比率にかかわらずパートナーの合意がない限り実行できません。それ以外の項目については、過半数決議・三分の二決議などを定款に定め、その規定に基づき董事会で決議することになります。

 

③ 中外合作企業

中外合作企業とは中外合弁形態の一種ですが、利益の分配とリスクの負担を出資比率ではなく、合弁契約(合作契約)に定めた条件で行うものです。

 

中外合作企業法には、合作企業には法人型と非法人型があると定められています。法人型とは法人格を有する形態で、非法人型というのは、法人を設立せず、各当事者(合作者)が合作契約に活動方針・リスク負担・利益分配などの条件を定めて事業を行う形態ですが、実務例では非法人型合作企業はほとんど事例がなく、原則は法人型となります。

 

合作企業形態のメリットは、上述の通り、リスク負担・利益配分などの条件が合作契約で柔軟に決められる点にあります。

 

例えば、中国パートナーは必要であるものの、経営に介入して欲しくない場合に、合作企業形態を採用し、一定の利益還元を条件に、中方出資者の経営関与を軽減する様な条件を設定する場合があります。

 

それ以外の重要な特徴は、合作期間満了時に全資産を中国合作者に無償譲渡することを条件に、外国出資者は投資の先行回収が認められることです。

 

インフラ事業・ホテル経営などは、設備投資が比較的大型であり、出資金額も高額になります。この様なかたちで設備投資を行い、それを運用して利益を獲得し、経営期間満了時に中国側に設備を引き渡す様な案件(BOT形式)の場合、減資ができなければ、初期投下した資金が合弁期間満了まで中国に寝てしまいます。この様な案件において、合作企業形態を採用すれば、投資の先行回収により出資者側の負担を軽減することができます。

 

尚、投資先行回収は、回収した資金の範囲内で合作企業の債務に連帯保証を差し入れる必要があるため、厳密には減資とは異なりますが、外資企業の減資が困難である状況を考慮すると、出資者の資金負担の軽減の観点からも、この形態を検討する価値はあるといえます。

 

尚、独資・中外合資・中外合作の何れの形態においても、原則として有限責任形態とすることが三資企業法に定められており、各出資者は出資額を限度として責任を負う(合作企業の場合は出資、または合作条件を限度として責任を負う)こととなります。

 

勿論、借入・その他取引の必要上、出資者が保証の差し入れなどを行っている場合は、この限りではありません。

本社の一部として扱われる「支店」と、「出張所」の違い

2.支店(分公司)

支店というのは法人と違い、本社(この場合、外国企業)の一部として扱われます。

 

子会社というのは、仮に100%出資の子会社であっても、法律上は親会社とは別人格であり、会計上も単体決算には含まれません。これに対して、支店は海外にあったとしても、本社の一部として扱われ、単体決算の一部を構成します。

 

因みに、同じく外国企業の一部として扱われる駐在員事務所との違いは、支店は営業行為が認められるのに対して、駐在員事務所は営業行為が認められず、情報連絡活動に特化している点です。中国の会社法(公司法)では、外国企業が中国に支店を開設することを認めていますが、運用上は、外国企業の支店の開設は認可を受けた一部の金融機関に限定されており、通常の企業は支店開設が認められていません。よって、現時点では、中国進出形態を決定する際には、支店は選択肢から除外せざるを得ません。

 

3.出張所(常駐代表処)

出張所は支店と同じく、本社である外国企業の一部として扱われますが、違いは活動範囲が補助的活動(情報収集活動など)に限定されており、直接的な営業活動が行えない点です。

 

出張所は開設が容易で、原則からいえば企業所得税も不要です。また、活動資金を経費送金のかたちで本社より受取り、これを使用して活動するという非常にシンプルな形態で、経理処理も極めて容易です。よって、中国に対する本格的な進出を行う前に、調査研究の意味合いも兼ねて開設するのに適した形態といえます。

 

上記で、原則からいえば企業所得税も不要と記載したのは、営業行為行わない駐在員事務所は所得が発生しないため、本来的には企業所得税も不要なはずですが、実際には大部分の駐在員事務所が実質的な営業活動をしていると見なされ、経費課税方式と呼ばれる見なし課税方式で、企業所得税課税を受けているためです。

本連載は、2017年9月1日刊行の書籍『中国ビジネス投資Q&A』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

中国ビジネス投資Q&A[2017改訂版]

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水野 真澄

チェイス・チャイナ

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