今回は、中国への企業進出形態のひとつである、「外資パートナーシップ」の概要について見ていきます。※製造業やサービス業など、多くの外資企業が進出する中国市場。本連載では、中国ビジネスコンサルタントで、Mizuno Consultancy Holdings Limited代表取締役社長・水野真澄氏の著書、『中国ビジネス投資Q&A』(株式会社チェイス・チャイナ)の中から一部を抜粋し、中国ビジネス展開に関する疑問をQ&A方式を紹介します。

外国企業・個人の二者以上で組成することも可能

Question 特殊な形態(パートナーシップ・株式会社・店頭銘柄)

 

三資企業(独資・合資・合作)以外の進出形態について教えてください。

 

Point

●三資企業(外資有限責任会社)以外の形態として、外資パートナーシップ企業や外資株式会社という形態がある。

 

●外資パートナーシップは、三資企業に比べて弾力的な運営が可能であるが、出資者の最低一者は無限責任を負う必要があり、また実例も少ないことから不明な点も多い。

 

●外資株式会社は原則として上場を目的とした形態であり、認可手続・資本金条件など設立条件は厳しい。

 

Answer

1.外資パートナーシップ企業

「外国企業・個人が中国内で設立するパートナーシップ企業管理弁法(国務院令2009 年第567 号)」・「外商投資パートナーシップ企業登記管理規定(国家工商行政管理局令2010 年第47 号)」が2010 年3 月1 日より施行されたことにより、外資パートナーシップ(中国語:外商投資合伙企業)形態が中国進出の選択肢となりました。

 

課税面をはじめとして不透明な点が多いため、現時点では、実例はそれほど多くはありませんが、中国人個人が出資者となることができる、利益分配が柔軟に設定できる、税務上はパススルー組織となっている(理論的には企業と出資者の二重課税を回避できる)というメリットがあります。

 

更には、「外商投資管理作業に関する問題の通知(商資函[2011] 72 号)」により、外資パートナーシップ企業の中国内投資は、外国出資と見なすことが明確になりましたので、国内持分出資を目的とした組織としての活用方法が検討される場合もあります。

 

外資パートナーシップ企業の概要は、以下の通りです。

 

① 外資パートナーシップ企業とは

1)出資者

外資パートナーシップ企業(以下、外資パートナーシップ)は、外国企業・外国人を含む二者以上の出資者で構成されたパートナーシップです。

 

よって、外国企業・個人の二者以上で組成することもできますし、外国企業・個人と中国企業・個人の二者以上での組成も可能です。

 

2)外資パートナーシップの種類

外資パートナーシップは、ジェネラルパートナーシップ(中国語:外商投資普通合伙企業)とリミテッドパートナーシップ(中国語:外商投資有限合伙企業)に分類されます。

 

ジェネラルパートナーシップとは、出資者全てが会社の債務に無限責任を負う形態を指します。また、リミテッドパートナーシップとは、無限責任出資者と有限責任出資者で構成される(最低一者は会社の債務に対して無限責任を負う)パートナーシップを指します。

 

3)利益分配

利益分配・責任負担形式は、外資パートナーシップ設立時に工商行政管理局に届出る必要があります。

 

つまり、出資者間の合意に基づき利益分配方法を設定でき、責任負担方式も同様ですが、ジェネラルパートナーは会社の負債に対して無制限で責任を負う必要があります。

不明点も多い、外資パートナーシップ企業への課税

② 外資パートナーシップ企業の設立

 

1)設立手順

外資パートナーシップは、外資企業(三資企業)とは異なり商務主管部門での設立許可・備案は不要ですので、直接、工商行政管理局で設立登記を行います。

 

工商行政管理局では許可審査を行いませんが、設立条件・外資管理規定に合致しない場合は登記が受理されませんので、この点、実質的な審査が行われると考えた方が確実です。

 

工商行政管理局での手続にあたっては、以下の内容を登記する必要があります。

 

●企業名称

●主たる経営場所

●業務執行パートナー(中国語:執行事務合伙人)の名称

●業務執行パートナーが法人・組織の場合は、委任する個人の氏名

●経営範囲

●パートナーシップの類型

 パートナーの名称、責任負担方式、資本金額・払込期限、出資方法・評価方式

●経営期限

 

2)設立制限

外商投資産業指導目録の禁止類に該当する業種、及び出資形態や出資比率に制限がある業種(合資・合作形態に限定されるなどの規制がある業種)については、外資パートナーシップの設立は認められません。

 

3)資本金制限

外資パートナーシップには、三資企業の資本金制限は適用されません。2014 年3 月1 日の三資企業法・会社法改定に伴い、外資企業の最低資本金規定が撤廃され、更に商務部令2015 年第2 号などで業法の最低資本金の多くが廃止されたため、特筆する内容ではなくなっていますが、外資パートナーシップに対しては、三資企業の最低資本金制限は適用されません。

 

但し、外資企業の総投資と資本金の比率の適用についてどの様に扱われるかは、不透明な点があります。外資パートナーシップは、企業形態が三資企業とは異なるため、理論的には適用対象外とも思えますが、そもそも総投資と資本金の比率は、法律上(工商企字[1987]38号)は対象が中外合資企業に限定されているにもかかわらず、実務上は独資企業・中外合作企業にも強制されています。

 

これを踏まえると、外資パートナーシップがどの様に扱われるかは、法律上の明記がなく、また実例も少ないことから判断が難しい状況です。また、外資パートナーシップの資本金払い込みの特徴として、外国企業がジェネラルパートナーである場合、役務により出資ができる点が挙げられます。この場合、実際に役務を提供する外国人の就業許可証などを、設立時に提示する必要があります。

 

③ 外資パートナーシップ企業に対する課税

外資パートナーシップは、企業所得税法上は課税対象ではなく、出資者に直接課税されることとなっています。

 

このため、外資企業(三資企業)の様に、一旦、企業所得税を課税され、更に外国企業に対する配当時に10%の源泉徴収課税が行われるのではなく、外国出資者に対して直接課税されるため、二重課税が回避できることになります。

 

理論的には上記の通りですが、現時点で、外資パートナーシップに対する課税は、法的にも実務的にも不明点が多い状況であることから、設立予定地の税務局で具体的な確認を行うことが望ましいといえます。

 

④ 中外合作企業との違い

中外合作企業も外資パートナーシップと同様、責任負担・利益分配方法を、契約書で定めるという類似点があります。

 

一方、異なる点は、現時点では中外合作企業に参画できる中国出資者は法人のみで、個人は不可であること(外国出資者の場合は個人でも可能)、中外合作企業は有限責任制であるが、外資パートナーシップは無限責任の負担が要求されること、その他設立手続・資本金条件などが挙げられます。

 

やはり、全ての出資者が出資の範囲内で責任を負うことが認められる中外合作企業に比べ、最低一人の出資者は無限責任を負うことが要求される外資パートナーシップはリスクが高いといえ、その点が普及に時間を要している要因かと思われます。

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    本連載は、2017年9月1日刊行の書籍『中国ビジネス投資Q&A』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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