今回は、トランプ新政権がエネルギー政策を今後どのように導いていくのか、その方向性について考察します。※本連載は、経済産業審議官、内閣官房参与などを歴任した豊田正和氏と、元海上自衛官で北京の日本大使館で防衛駐在官を務めた小原凡司氏の共著書『曲がり角に立つ中国――トランプ政権と日中関係のゆくえ』(NTT出版)の中から一部を抜粋し、成長減速という曲がり角に立つ隣国「中国」と賢く付き合う道を探ります。

政策の具体策が明言されず「空の箱」状態にある理由

エネルギー・環境面の日中協力について議論する前に、トランプ政権の方向性を整理しておきたい。

 

第一の特徴は、新政権のエネルギー政策は、相当程度「空の箱」状態にあるということだ。

 

それは、エネルギー・インデペンデンスを実現しつつある米国にとって、エネルギー・環境政策の重要性は低く、選挙前には大きな対立軸にならなかったからだと言ってよい。確かに、シェール開発のいっそうの促進のために、国有地での規制を緩和するとか、石炭利用の継続とか、果ては、「パリ協定」からの離脱とか、勇ましいセリフは飛び出したものの、その後、目立った発言はしていない。エネルギー省長官や、環境保護庁(EPA)長官に、化石燃料ビジネス関係者が名を連ねているのは事実だが、具体策は明言していない。

 

第二に、「補助金を必要としないエネルギーはすべて拡大」と言っているように、何かに力点を置いて開発利用を促進する方針ではないようだ。再生可能エネルギーを、政策支援をしてまで促進することもなさそうだが、石炭を優遇することもなさそうだ。いまやシェール革命のおかげで、米国では、天然ガスのほうが石炭より安価になっており、石炭利用が米国内でどんどん進むことにはなりそうもない。

「パリ協定」からの離脱は前大統領のレガシーつぶし⁉

第三に、前政権は、気候変動対策の観点から、CCS付きでないと石炭火力は許されないという方針を有し、途上国による石炭火力建設へのOECD系の資金支援に否定的であったが、こうした立場を緩める可能性が大きい。燃焼効率が最高レベルの超々臨界石炭火力(USC)は支援してもよい、という立場をとることもありえるだろう。その意味では、日本の立場に近づくのかもしれない。

 

第四に、原子力については、「ユッカマウンテン(放射性廃棄物処理場建設計画)を支持しない」といった発言をしたことがあるが、計画を再開するため、三月に、二〇一八会計年度の予算教書に一億二〇〇〇万ドルの予算を計上したことからすると、中立的というより前向きと言ってよいだろう。

 

第五に、気候変動対策そのものについては、「パリ協定」からの離脱に言及している。

 

しかし、これとても、前大統領のレガシーつぶしの性格が強そうだ。実際、締約国は四年間離脱できないし、離脱は簡単ではない。むしろ、パリ協定は国際条約だから、本来、上院で批准されないかぎり効力を発揮しないが、オバマ政権がそのプロセスを踏んでいないため、プロセスに瑕疵があるといった立場をとる可能性がある。選挙で勝利を得た後は、「パリ協定」への言及はなく、むしろ、「慎重に検討する」、「オープンマインドだ」と発言のトーンを緩めている。最終的にどのようなポジションをとるのか曖昧だが、気候変動に積極的立場をとるとは思えないものの、現実的な立場をとる可能性が高いのではないか。その意味では、アジアにとっては対応しやすいし、日本の現実的な路線にも呼応する可能性が高い。

曲がり角に立つ中国 トランプ政権と日中関係のゆくえ

曲がり角に立つ中国 トランプ政権と日中関係のゆくえ

豊田 正和,小原 凡司

NTT出版

未来永劫の“永遠の隣国”中国といかに賢く付き合うか。 中国は高度成長がおわりを迎え、社会に不満が蓄積し、諸外国とは不協和音がひびき、大きな曲がり角に立っている。さらに、米国にトランプ政権が誕生し、従来の枠組みの…

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