中国と日本は「未来永劫の隣国」
中国には、さまざまな顔がある。「経済大国の顔」、「覇権国の顔」、「エネルギー・環境問題に悩む顔」、「途上国の顔」、「歴史問題でナショナリズムをたぎらせる顔」、「国際システム作りに意欲を示す顔」、「世界の尊敬を求める顔」などなど。簡単に七種類の顔を頭に浮かべることが可能だ。
中国と日本は、未来永劫の隣国であり、このさまざまな顔が、リスクとチャンスを提供している。南シナ海や東シナ海、尖閣列島など領有権にまつわる摩擦もあれば、双方にとって生産拠点や市場となる経済的魅力もある。いまや中国は、GDP規模(二〇一六年名目ベース)で見れば一一・一兆ドルであり、日本(四・一兆ドル)の二・七倍を超える大国に成長したが、一人当たりGDPで見れば、中国は八二六〇ドルであり、日本が、未だ四四倍の大きさだ。
その中国が、いまや曲がり角に立つ。高成長から低成長へ。格差拡大と腐敗への不満のために、社会的な安定から不安定へ。さらには、政権内においては、権力闘争の激化へ。
成熟した日中関係を作る「三つの協力」からスタート
さて、日本はどうするべきか。摩擦を恐れて、付き合うのをやめるのか。大きな市場の魅力にひかれて、関係をますます深めるのか。リスクを最小にし、チャンスを最大にする。日中双方にとって、そうした付き合い方はできないものか。それが賢い付き合い方というものだ。
一言でいえば、三つの協力と、三つの抑止と、そして、一つの慫慂(しょうよう・相手に要求するばかりでなく、わが身を振り返り、みずからが範を示せるようになることによって、相手の行動も変える)の巧みな均衡を図ることであり、いずれか一つを採ることではないのではないか。この七本柱が賢い付き合い方であり、中国側もそれを理解する、それが成熟した日中関係を作りあげる道ではないだろうか。
まずは、三つの協力から始めよう。すでに随所で詳細に述べてきたが、ここで改めて整理してみたい。
第一が、日中二国間協力だ。その典型が、エネルギー・環境分野での協力だ。少なくとも、六つの分野があるだろう。初めに、省エネルギー推進。次に、化石燃料、とりわけ、よりクリーンな天然ガス利用の促進。そして、再生エネルギーの低コスト化。さらに、原子力の安全性確保。他にも、環境対策。そこには、気候変動対策のほか、伝統的な公害対策も入れてよい。最後に、中長期的視点から、東アジアにおけるエネルギー・ネットワークの構築。
第二が、アジアにおける日中協力だ。とりわけ、アジアにおけるインフラ整備。エネルギーの低廉、安定供給確保も重要である。アジア金融危機を回避するための通貨協力も重要だ。
第三が、ルール・メイキングの日中協力とコンプライアンスの日中尊重だ。
東アジアサミット・ワイドの東アジア地域包括的経済連携(RCEP)や、日中韓経済連携協定を早期に完成させ、そして、その順守と活用に模範を見せることだ。日本にしてみれば、いまや米新政権の誕生に伴い、米国が関心を失ったかに見えるTPPの完成のためにも刺激剤として有効だ。
さらに、日中のビジネス環境整備協力も重要だ。その際、米新政権が懐疑的な、WTOの紛争処理メカニズムの尊重も重要だ。中国は最大の被告であるが、これまでの順守状況は、決して悪くない。中国にとっても、WTOは使いでがあるはずだ。