今回は、日中が推進すべき、エネルギー・環境政策の「互恵的協力」について見ていきます。※本連載は、経済産業審議官、内閣官房参与などを歴任した豊田正和氏と、元海上自衛官で北京の日本大使館で防衛駐在官を務めた小原凡司氏の共著書『曲がり角に立つ中国――トランプ政権と日中関係のゆくえ』(NTT出版)の中から一部を抜粋し、成長減速という曲がり角に立つ隣国「中国」と賢く付き合う道を探ります。

日本の「省エネルギー支援政策スキーム」を中国に移転

前回の続きです。

 

米新政権のエネルギー・環境政策が、いわば白紙に近いとき、日中は、どのような協力を推し進めるべきか。筆者著書『曲がり角に立つ中国――トランプ政権と日中関係のゆくえ』(NTT出版)で述べているように、互恵的な協力を素直に進めればよいのではないか。

 

第一に、省エネルギー協力である。中国の石油の自給率が急速に低下していることは、すでに述べた。エネルギー安全保障の懸念は、日中で共有している。最大の処方箋は、省エネルギーである。GDP当たりのエネルギー消費量を比較すると、日本、中国それぞれ七八TOE/百万ドル(二〇一〇年価格)、三七一TOE/百万ドルとなっており、GDP当たりのCO排出量も、それぞれ二一三トン/百万ドル(二〇一〇年価格)、一一三六トン/百万ドルとなっている。

 

産業構造に違いがあるのは事実だが、日本が、GDP当たりのエネルギー消費量で四・七倍の効率、GDP当たりのCO排出量で五・七倍の効率となっている。省エネルギーは、技術も重要だが、政策スキームやユーザーの行動文化の影響も少なくない。省エネルギー面で、日本は一日の長がある。中国への日本の省エネルギー支援政策スキームなどの移転は、中国のエネルギー需要を抑えることになり、エネルギー需給が緩和することから日本にとっても少なからぬメリットがある。

日中による流動的かつ健全な「LNGマーケット」の作成

第二に、低炭素化に向けた「天然ガスシフト協力」である。

 

石炭火力やガス火力の技術においても、未だ日本の効率が優れていると思われるが、より重要なことは、アジアにおける透明かつ流動的なLNGマーケットの形成である。数年前まで、石油価格が一〇〇〜一二〇ドル/バレルの水準にあり、石油連動で価格が決まっていたアジアのLNG価格は一八ドル/百万BTUという水準となり、米国の六倍、欧州と比べても五割ほど高い時期があった。いわゆるアジアプレミアムである。

 

二〇一六年時点で石油価格が五〇ドル/バレル程度まで低下しており、LNG価格も約八ドル/百万BTUに低下している。それでも米国の三倍、欧州の二倍近い水準である。今後、石油価格が高くなると予想されることから、再びアジアプレミアムが復活する可能性がある。これは、日本や中国の問題だけではなく、アジア全体の問題でもある。日中は、他のアジアの国々と協力して、仕向け地条項をなくし、石油連動をはずし、アジアハブを設立し、透明で流動的かつ健全なLNGマーケットをアジアにおいて作っていく必要がある。日中が、この面でも共同イニシアチブを発揮することが望まれている。

 

第三は、再生可能エネルギー導入策である。

 

再生可能エネルギーは、基本的にゼロエミッションの国産エネルギーであり、エネルギー安全保障面でも、気候変動対策としてもすぐれている。課題はコストである。それは、太陽光発電や風力発電におけるパネルや機器のコストだけではなく、システムコストやバックアップコスト、さらに送電網拡充コストも含めての話である。日本は、すでにパネルや風力発電機器の相当程度を中国から輸入している。今後は、バックアップ用の蓄電池のコストの引き下げなどでも、協力していく余地は大きい。すでに、第三国における日中協力案件も出始めている。

 

この話は次回に続きます。

本連載は、2017年7月6日刊行の書籍『曲がり角に立つ中国――トランプ政権と日中関係のゆくえ』から抜粋したものです。その後の改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

曲がり角に立つ中国 トランプ政権と日中関係のゆくえ

曲がり角に立つ中国 トランプ政権と日中関係のゆくえ

豊田 正和,小原 凡司

NTT出版

未来永劫の“永遠の隣国”中国といかに賢く付き合うか。 中国は高度成長がおわりを迎え、社会に不満が蓄積し、諸外国とは不協和音がひびき、大きな曲がり角に立っている。さらに、米国にトランプ政権が誕生し、従来の枠組みの…

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