今回は、日本・欧米諸国と中国間との摩擦について、解決を導く方策を取り上げます。※本連載は、経済産業審議官、内閣官房参与などを歴任した豊田正和氏と、元海上自衛官で北京の日本大使館で防衛駐在官を務めた小原凡司氏の共著書『曲がり角に立つ中国――トランプ政権と日中関係のゆくえ』(NTT出版)の中から一部を抜粋し、成長減速という曲がり角に立つ隣国「中国」と賢く付き合う道を探ります。

安全保障構造に変化を及ぼす「新たな経済的アクター」

中国は、第一次世界大戦及び第二次世界大戦の経験を通じて、各国に壊滅的なダメージを与える戦争自体を否定する日本や欧米諸国の認識とは、異なる認識を有している可能性がある。こうした認識のギャップを埋めるためには、長い時間と努力が必要である。

 

さらに、新しいルールを創出するためには、常に困難を伴う。各国の経済的利益は往々にして相反するからである。利害の不一致を最小限にするためには、世界経済を発展させ、全体のパイを大きくしなければならない。

 

また、影響力を持つ新しい経済的アクターが出現することは、地域の安全保障構造にも変化を及ぼす。いわゆる「米中対峙」のイメージから脱することができるかもしれない。

 

新たな経済的アクターとして、東南アジアは最も有望な地域である。東南アジア各国について、米中対峙という状況下で、バンドワゴニング(勝ち馬に乗る)、ヘッジング(リスクに備えたけん制の仕組みを作る)、パワーバランシング(勢力の均衡を図る)といった態度によるグループ分けをする議論も見受けられるが、実際には、東南アジア諸国を分断してしまうと統一されたアクターとして影響力を行使できない。

 

安全保障に関する問題について具体的な行動をとるための合意を得ることが難しい東南アジア地域において、経済的なネットワーク構築が、東南アジア諸国の主導性を維持し、各国の合意を容易にし、さらに東南アジア地域が、米中を始めとするアジア太平洋地域各国がその影響力を考慮しなければならなくなるアクターとなることを助けるものに成りうる。

問題解決が期待できるトランプ大統領の「二国間取引」

現在の状況下で、トランプ大統領の誕生は、新たなルール創出のための議論を推進する可能性がある。「米国第一主義」を掲げ、米国の国益を最優先とするトランプ大統領の、中国を始めとする各国との交渉は、具体的な問題についての取引になると予想される。各国が不満に感じていることを直接、議論できる可能性があるということでもある。

 

トランプ大統領が多国間枠組みを嫌い、二国間で取引しようとすることも、内容とやり方によっては、問題解決に効果があると思われる。問題は、米国と各国が行った取引を、全体としてどのような原則で統合できるかである。日本は、米国が行う二国間の取引の内容について、どのような原則に基づいて行われるのか、米国との間で意思の疎通を図っておく必要がある。

 

トランプ大統領は早期に二国間取引を開始するかもしれないが、それぞれの合意を原則として統合し、国際的なルールとするには、長い時間が必要である。認識のギャップを埋める努力と同時に議論を開始し、抑止が効果を持つ間に、問題の根本的解決に向けたコンセンサスを中国との間で確立しなければ、摩擦は増すばかりである。

曲がり角に立つ中国 トランプ政権と日中関係のゆくえ

曲がり角に立つ中国 トランプ政権と日中関係のゆくえ

豊田 正和,小原 凡司

NTT出版

未来永劫の“永遠の隣国”中国といかに賢く付き合うか。 中国は高度成長がおわりを迎え、社会に不満が蓄積し、諸外国とは不協和音がひびき、大きな曲がり角に立っている。さらに、米国にトランプ政権が誕生し、従来の枠組みの…

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