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日本と中国の安定した関係維持に不可欠な「抑止・慫慂」とは?

今回は、日本が「能動的」に動き、中国と向き合う環境をつくる重要性を解説します。※本連載は、経済産業審議官、内閣官房参与などを歴任した豊田正和氏と、元海上自衛官で北京の日本大使館で防衛駐在官を務めた小原凡司氏の共著書『曲がり角に立つ中国――トランプ政権と日中関係のゆくえ』(NTT出版)の中から一部を抜粋し、成長減速という曲がり角に立つ隣国「中国」と賢く付き合う道を探ります。

日米協力の強化、アジアにおける多国間協力の強化

前回の続きである。次に、三つの抑止だ。

 

第一に、日米協力の強化。

 

その中心は安全保障分野となるが、それにとどまらない。技術開発分野でも同様だ。貿易投資ルール分野で重要なのがTPPの早期発効であり、その拡大だ。トランプ政権はTPPに関心を有していないが、諦める必要はない。二〇一七年二月中旬の日米首脳会談において、トランプ大統領は、日米同盟を重視していくことを明らかにした、トランプ政権はTPPについても、時間はかかるにしても、米国に利益をもたらすと理解すれば、必ず実現しようとすると思われるからだ。そうした観点から、三月中旬に、チリで開かれたTPP閣僚会議での議論は興味深い。

 

先にも述べたように、①米国なしでも、発効させようという国、②米国が説得できるまで待とうという国、③中国を入れて議論しようという国などさまざまだったようだ。ここで重要なことは、日本が能動的に、TPP発効へのイニシアチブを取ることではなかろうか。

 

たとえば、米国にはいつでもオープンと言いつつ、一一カ国による発効を働きかけ、同時に、英国や韓国の参加を促すのも一案だ。一方で、日米の間では、米国との二国間自由貿易協定も否定せずに議論するとともに、TPPのより大きなメリットも議論する。このまま放置しておいて、TPP関係国がバラバラにならないためにも、米国にTPPの良さを理解してもらうためにも、能動的アプローチが重要だろう。

 

第二に、日米を含めたアジアにおける多国間協力の強化。

 

韓国、ASEAN、オーストラリア、ニュージーランド、インドとの安全保障協力が中心となろう。米新政権は自国の国防力強化には熱心だが、世界の問題に対しては、米国に利益をもたらすものに選択的関与を行うようだ。未だアジア政策の全貌は明らかではないが、成長するアジアに関心を持たないとは思われない。ここにおいても、日米をはじめとして、日韓、日豪、日ASEAN、日印の間で、北朝鮮問題や南シナ海問題も含めて政策の方向性を共有し、同盟のネットワークを形成することが重要だ。日本が能動的に、これらの同盟国を引っ張っていく必要があるだろう。

 

第三に、アジアにおける中国の相対化。右に述べた、米国にはいつでもオープンとしつつ、当面、米国なしの一一カ国によるTPPの実現も、経済面の抑止として重要だろう。

 

これは、日本が能動的に、ASEANとインドの発展を支援することに他ならない。比較可能な最新時点(二〇一四年。二〇一〇年実質ベース)で、中国のGDPは約八・二兆ドル。ASEAN、インドのGDPは、おのおの二・四兆ドル、二・二兆ドル、合計して四・六兆ドルの規模であり、中国の半分強である。それが、二〇四〇年には、ASEAN、インドおのおの七・四兆ドル、一一兆ドル、合計一八・五兆ドルとなり、中国(三〇兆ドル弱)の六〇%強、日本(七兆ドル強)の二・五倍となりうる(日本エネルギー経済研究所見通し)。

 

ASEAN、インドが着実に成長し、中国がアジアの最大の国であっても、ほかにも多々、大国が存在する状況を作ること、すなわち、アジアにおける中国の相対化こそが、最大の抑止になるのではないか。

日本自身がさまざまな改革を進め、活力を取り戻す

最後が、一つの慫慂。すなわち、日本自身がさまざまな改革を進め、活力を取り戻すことである。

 

日本にも、さまざまな問題がある。構造改革と潜在成長率の向上、少子高齢化、革新技術の開発、貧富の差の拡大防止などなどだ。日本が、これらを着実に解決して活力の維持拡大を見せることが、中国の改革を進める最大の慫慂策となる。結果として、日本が一人当たりのGDPをさらに高めていくことになる。二〇一五年における一人当たりのGDPは、いまや二六位。二〇〇〇年には、上位三位に入っていたはずだ。まだまだ、なすべきことはある。

 

以上、賢い付き合い方の七本柱を提起した。隣国中国は、本節冒頭で、少なくとも七つの顔を有することについて言及したが、さまざまな顔を持つ大国である。

 

ノーベル経済学賞を受賞したオランダの経済学者ヤン・ティンバーゲンは、「N個の独立した政策目標を同時に達成するにはN個の独立した政策手段が必要」とするティンバーゲンの定理で有名である。七つ以上の顔を有する中国と賢く付き合うには、七つ以上の対応があっても不思議ではない。日中関係の天気は、春風の吹く時もあれば、日が燦燦と照る時もある。他方、強風が吹くこともあれば、集中豪雨の時もある。どのような天候の下でも、七つの対応があれば、日中間は柔軟で建設的な関係を維持・構築できるのではないか。

 

大方の予想に反して、米国でトランプ政権が誕生し、民主主義や資本主義が崩壊し、パックス・アメリカーナも終焉したという悲観論が少なくない。 少なくとも日米同盟の維持強化だけを外交の中核にしていれば安泰な時代は、終わりつつある、不確実な世界経済と政治環境のなかで、日本には、日米関係を含む国際環境に左右されない強靭な関係を隣国中国と構築することが求められているのだ。

 

それは、待ちの姿勢では実現しない。「能動的」という言葉を何度か使ったが、これらの七つの柱を実現すべく、日本が能動的に動くことこそが重要だ。それが、中国との賢い付き合い方の基本になるのではないか。

一般財団法人日本エネルギー経済研究所 理事長

1949年生まれ。1973年通商産業省入省。
OECD国際エネルギー機関勤務を含め、貿易・エネルギー・環境などの分野で幅広い経験を積む。経済産業審議官、内閣官房参与など歴任。
共著書に『エネルギーと新国際秩序』(2014年エネルギーフォーラム)

著者紹介

笹川平和財団 特任研究員

1985年 防衛大学校卒業、1998年 筑波大学大学院(地域研究修士)修了(修士)。
1985年 海上自衛隊入隊後、回転翼操縦士として勤務。2003年~2006年 駐中国防衛駐在官。2006年防衛省海上幕僚監部情報班長、2009年 第21航空隊司令、2011年IHS Jane’s アナリスト兼ビジネス・デベロップメント・マネージャーを経て、2013年1月に東京財団、2017年6月から現職。著書に『中国の軍事戦略』(東洋経済新報社)、『軍事大国・中国の正体』(徳間書店)、『何が戦争を止めるのか』(ディスカバートゥエンティワン)、『曲がり角に立つ中国』(NTT出版)等。

著者紹介

連載成長減速という曲がり角に立つ隣国「中国」との付き合い方

 

曲がり角に立つ中国 トランプ政権と日中関係のゆくえ

曲がり角に立つ中国 トランプ政権と日中関係のゆくえ

豊田 正和,小原 凡司

NTT出版

未来永劫の“永遠の隣国”中国といかに賢く付き合うか。 中国は高度成長がおわりを迎え、社会に不満が蓄積し、諸外国とは不協和音がひびき、大きな曲がり角に立っている。さらに、米国にトランプ政権が誕生し、従来の枠組みの…

 

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