今回は、トランプ時代における「日中の共存共栄関係」の構築について考察します。※本連載は、経済産業審議官、内閣官房参与などを歴任した豊田正和氏と、元海上自衛官で北京の日本大使館で防衛駐在官を務めた小原凡司氏の共著書『曲がり角に立つ中国――トランプ政権と日中関係のゆくえ』(NTT出版)の中から一部を抜粋し、成長減速という曲がり角に立つ隣国「中国」と賢く付き合う道を探ります。

日中両国にメリットのある「エネルギー安全保障」協力

前回の続きです。

 

以上のような経済面における米新政権への対応を前提にして、日本は、どのような日中間の共存共栄関係を作るのか。それには、できるところから始めればよい。五点ほどあげてみたい。

 

第一は、エネルギー・環境分野である。


日本は、エネルギー自給率が七%程度という、世界に冠たるエネルギー大貧国である。中国は、石炭や天然ガスにおける自給率は高いものの、筆者共著『曲がり角に立つ中国――トランプ政権と日中関係のゆくえ』第7章の第1節で見たように、石油については急速に自給率を落としている。一九九〇年においてはエネルギー輸出国であったものが、二〇一四年には、自給率は四二%へ低下し、二〇四〇年まで現在のエネルギー政策が継続すると、さらに二二%まで低下する。

 

危機感は大きい。エネルギー安全保障のための協力は、日中両国にとって互恵的である。さらに、中国は急速な発展の中で公害問題が深刻化しており、気候変動問題とともに、国家の優先課題にしている。本分野においても日本の技術への期待は少なくなく、低炭素社会構築のための協力の余地も少なくない。尖閣列島の国有化で日中間が政治的にきわめて難しい状態となったときも、少なくとも、民間ベースでの協力の火が消えなかったのは、本分野である。詳細は、次節で述べることとしたい。

RCEPの内容は「中国の野心度合」で決まる!?

第二に、貿易・投資のルール作りである。


TPPが大筋合意を迎えたとき、中国は、TPPへの参加にすら関心を示したことがある。その後、トランプが大統領就任演説で「TPPからの離脱」を宣言したことから、TPPのフルスペックでの実現が容易でないことは、筆者著書『曲がり角に立つ中国――トランプ政権と日中関係のゆくえ』で詳述した(一八八〜一九〇ページ)。米国が入らないTPPには、中国は関心を示さないだろう。

 

しかしそれは、中国が、貿易・投資自由化に関心がないことを意味しない。野心度合の問題であり、ASEAN+六カ国(日中韓、ニュージーランド、オーストラリア、インド)が進める東アジア地域包括的経済連携(RCEP)への関心は高く、日中韓経済連携協定への関心も小さくない。やがては、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の実現も望んでいる。RCEPについては中国が主導していると言われるが、実態は、中国の野心度合で内容が決まるといったほうが適当だろう。

 

構造改革は進めたいが、野心度合が高すぎると国内における反対勢力の抵抗が強いことは、中国のみならず、日本でさえ同様だ。したがって、各国は、それぞれの国が吸収できる野心度合を持っている。RCEPの場合は、GDPで最大の国が中国となるゆえに、中国の野心度合で大枠が決められる可能性が高い。

 

しかし、一方で、構造改革を進めたい中国は、国内で消化しやすい一定のレベルを超えて合意をする用意があるはずだ。そこで重要なのが、RCEPの交渉国としての二大大国である日中というわけだ。TPPほどの野心度合は無理だとしても、東アジアでの、よりいっそうの貿易・投資の自由化は、日中が協力すれば可能であろう。日中韓の経済連携協定も同様だ。しかも、RCEPや、日中韓経済連携協定の交渉が進展すれば、米国の新政権への適切な刺激にもなるだろう。

 

この記事は次回に続きます。

米中関係に大きな影響を与える「トランプ政策」の行方について考察します。※本連載は、経済産業審議官、内閣官房参与などを歴任した豊田正和氏と、元海上自衛官で北京の日本大使館で防衛駐在官を務めた小原凡司氏の共著書『曲がり角に立つ中国――トランプ政権と日中関係のゆくえ』(NTT出版)の中から一部を抜粋し、成長減速という曲がり角に立つ隣国「中国」と賢く付き合う道を探ります。

曲がり角に立つ中国 トランプ政権と日中関係のゆくえ

曲がり角に立つ中国 トランプ政権と日中関係のゆくえ

豊田 正和,小原 凡司

NTT出版

未来永劫の“永遠の隣国”中国といかに賢く付き合うか。 中国は高度成長がおわりを迎え、社会に不満が蓄積し、諸外国とは不協和音がひびき、大きな曲がり角に立っている。さらに、米国にトランプ政権が誕生し、従来の枠組みの…

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