今回は、対米の観点で求められる「日中の協力」「アジア諸国の連携」について見ていきます。※本連載は、経済産業審議官、内閣官房参与などを歴任した豊田正和氏と、元海上自衛官で北京の日本大使館で防衛駐在官を務めた小原凡司氏の共著書『曲がり角に立つ中国――トランプ政権と日中関係のゆくえ』(NTT出版)の中から一部を抜粋し、成長減速という曲がり角に立つ隣国「中国」と賢く付き合う道を探ります。

アジアで懸念される「ドルの独歩高」

前回の続きです。

 

第三に、通貨協力である。


一九九七年のアジア通貨危機に直面して、アジア各国は、国際通貨基金(IMF)への支援を求めた。IMFは、世界銀行や、アジア開発銀行(ADB)と協力して支援策をまとめ、日本や米国も、二国間支援を発表した。そこで日本によって構想されたのがアジア通貨基金であり、IMFのアジア版であった。日本の台頭を快く思わなかった米国の反対に遭い、IMFとの重複などを理由に、結果的には成立に至らなかった。

 

しかしアジア各国には、アジアにおける金融協力の重要性は共有され、一九九九年一一月のASEAN + 三(日中韓)首脳会議において、「東アジアにおける自助・支援メカニズムの強化」がうたわれ、チェンマイ・イニシアチブの下、二〇〇〇年五月には、通貨スワップ等の取り決めが行われた。

 

当初は、ASEAN五カ国と日中韓との間の二国間協定の集合体であったが、二〇一〇年三月に、多国間スワップ契約化が実現した。トランプ政権が米国第一主義、すなわち「アメリカを再び偉大にしよう(Make America Great Again)」政策を推進するなかで、アジアではドルの独歩高が懸念されており、本メカニズムのさらなる強化に関心が集まっている。

アジアのインフラ整備、経済発展が日中のメリットに

第四に、アジアにおけるインフラ整備協力である。


アジアのインフラ整備については、中国は、「一帯一路」構想を有し、アジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立している。日本は東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)や、アジア開発銀行(ADB)と協力しつつ、同様に、アジア各国のインフラ整備に努めている。現実にはAIIBとADBは協調融資を進めており、協力は進展している。

 

アジアのインフラが整備され、アジア諸国の経済がいっそう発展することは、日中双方にとって、貿易・投資機会の拡大になるわけで望ましい。むろん、具体的案件になれば、鉄道、道路、発電設備等、日中企業間で競争することも少なくないであろう。その競争が健全なものであるかぎり、アジア諸国にとっては歓迎だろう。やがては、日中企業どうしの共同実施案件が出てくることが望まれる。

 

第五に、日中それぞれの国におけるビジネス円滑化協力である。


筆者著書『曲がり角に立つ中国――トランプ政権と日中関係のゆくえ』第13章で述べたように、日中間の相互投資は急速に進展している。二〇一五年時点において、日本の対中投資は約三二億ドル。中国の対日投資も、その一五分の一くらいには増大してきており、香港や、ケイマン諸島経由のものを入れると、さらに拡大している可能性がある。

 

日中相互に、ビジネス環境を改善することは、双方にとって望ましい。日中韓投資協定については、二〇一四年に発効しているが、さらなる改善が望まれており、現在交渉中の日中韓経済連携協定において、より自由化度合の高い投資規定(たとえば、約束方式について、中国が他国と締結済み、あるいは交渉中の協定にならって、ネガティブリスト方式を採用することなど)を設けて合意することなどが望まれている。

本連載は、2017年7月6日刊行の書籍『曲がり角に立つ中国――トランプ政権と日中関係のゆくえ』から抜粋したものです。その後の改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

曲がり角に立つ中国 トランプ政権と日中関係のゆくえ

曲がり角に立つ中国 トランプ政権と日中関係のゆくえ

豊田 正和,小原 凡司

NTT出版

未来永劫の“永遠の隣国”中国といかに賢く付き合うか。 中国は高度成長がおわりを迎え、社会に不満が蓄積し、諸外国とは不協和音がひびき、大きな曲がり角に立っている。さらに、米国にトランプ政権が誕生し、従来の枠組みの…

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