新しい場所、新しい建物で開業するのが望ましいが…
前回の続きです。一般に、クリニックの開業における物件の選定には、以下のような方法があります。
①ビルの一室を借りる
②建物を丸ごと一棟借りる
③土地だけ借りて、建物は自分で建てる
④地主に建物を建ててもらって、土地と建物をセットで借りる
⑤土地を買って、建物も自分で建てる
②のように既存の建物を一棟丸ごと借りるという方法ですが、これは実際にクリニック向けの既設物件が少ないので、あまり使われていません。
もちろん、かつて別のクリニックが開業していた建物を、居抜きで借りるという手はあります。その場合は建物の建設費がかからないので、一見、資金的にはメリットがあるように思えます。
しかし、この方法もあまりおすすめできません。なぜならば、過去のクリニックにどのようなイメージがついているかわからないからです。もし、その建物にかつて存在していたクリニックにネガティブなイメージがあったとしたら、新しいクリニックにもネガティブなイメージがどうしても残ってしまいます。
患者は、クリニックの経営者が代わったことなどには、なかなか気づきません。内科から小児科へと診療科目が変わって、クリニックの名前も変わって、医師が変わっていたとしても、経営母体が変わっているかどうかは一般の人にはわかりません。そして、往々にして、オーナーが同じであれば、体質も同じではないかと思われてしまうのです。
ですから、新しくクリニックを開業するのであれば、新しい場所で新しい建物を建てるところから始める方が、ブランディング戦略上は有効です。資金やコネの問題で、どうしても、以前にあったクリニックと同じ場所・建物で開業せざるを得ないときは、せめてフル・リフォームを施して、イメージの刷新をしてください。
地主が最も土地を借りてほしい相手は「医師」
次に、③土地だけ借りて、建物は自分で建てる場合について説明します。この方法は、空き地の多い地方都市でよく使われる方法で、最もポピュラーなケースといえます。
地方の地主は、余っている土地を、よりよい方法で活かしたいと考えています。
一昔前であれば、賃貸住宅(アパート)経営がもっぱらだったのですが、人口減少で住宅の余剰が叫ばれつつある現在、賃貸住宅は難しいと考える人が増えています。
それに、賃貸住宅を経営する場合は、地主が自分で建物を建てなければなりません。銀行から融資を受けて不動産投資をするのもいかがなものかと、土地を遊ばせている地主も少なくないのです。
地主にとって最もありがたいのは、ただ土地を貸して、その分の地代が収入になることです。定期借地権を設定すれば、地主は10年から20年ごとの更新時に、いつでも土地を返してもらうことができるからです。もちろん、そのまま更新して土地を貸し続けることもできます。
とはいえ、自分の所有する土地に、変な建物は建ててほしくありません。田舎で周囲が知り合いばかりで、その土地の所有者が知られていればいるほど、パチンコ店や風俗店などは建ててほしくないのです。
そんな地主が最も貸したがっている相手が、医師です。自分の所有する土地にクリニックが建つとなれば、人も集まって周辺が賑わいますし、知り合いに自慢することもできます。
私が手掛けた案件では、とある土地をスーパーマーケットが狙っていたのですが、クリニックのために貸してくれませんかと交渉したところ、あっさりとこちらになびいてくれたことがありました。地方都市では、スーパーマーケットよりもクリニックの方が、はるかに価値が高いのです。
[図表]クリニック開業における物件の選び方
この話は次回に続きます。