本連載は、金融審議会会長などを歴任、現在はアジア開発銀行研究所・所長などを務める吉野直行氏と、東京三菱銀行調査部長などを歴任、現在は近畿大学世界経済研究所客員教授などを務める山上秀文氏の共著書、『金融経済 第3版 実際と理論』(慶應義塾大学出版会)の中から一部を抜粋し、実際と理論の両面から金融経済の基礎知識を解説します。今回は、本連載の出典となる書籍『金融経済 第3版 実際と理論』の各chapterの概要を紹介します。

Part1 実際編

chapter1 資金循環と資金の過不足

本章では、経済と金融の関係を明らかにする。そのために資金循環統計を用いて、マクロ的に代表的な経済部門である家計、企業、政府それぞれの資金の過不足の実際を説明する。そして、この過不足調整にあたっての金融の役割を考察したい。また、特に企業の資金過不足の調整についてはISバランスの観点からそのメカニズムを明らかにしたい。

 

chapter2 企業の資金調達と投資

第1章で日本の資金循環と資金の過不足の全体像について説明した。本章ではそのなかで特に、日本企業の資金調達と投資に焦点を絞り、その実際のメカニズムを考察したい。また利子率と投資の関係や最適な投資を決定するためのトービンのqなどの理論的な面についても踏み込んで、企業の実際の投資行動についての理解を深めるために解説する。

 

chapter3 金融商品のリスク制御と価格計算

本章では、まず、日本の家計のポートフォリオの実際の特徴と、伝統的な金融商品である国債と株式の価格計算、ならびに付随する問題点を説明する。その上で1970年代以降、目覚ましい発展を遂げた新しい金融商品と、それを支えるリスク制御と価格計算という2つの金融技術について、その基本的な考え方を紹介したい。また、これらの金融技術の高度化がもたらした効果と、他方、近年にいたって、明らかとなった新しい金融商品がもたらす新たなリスクとさまざまな課題について考えたい。

 

chapter4 金融機関の仲介機能と証券市場

これまでまず第1章では、「金融」の基本的な役割が、資金循環における資金の過不足の調整をすることにあるという説明を行なった。続いて第2章では、その資金循環のなかで特に企業の資金調達と投資行動を、また第3章では、残高ベースで資金余剰主体の家計から資金不足主体の企業に資金を流すためのさまざまな金融商品について解説した。本章ではそうした資金の流れを仲介する経済主体としての役割を果たしている、日本の金融機関の構成について述べるとともに、資金仲介の場としての証券市場発展の歴史を振り返りたい。

 

chapter5 金融行政と金融政策

本章では、金融機関や市場の働きを望ましいかたちに整える金融庁の金融行政と日本銀行の金融政策について説明する。金融のグローバリゼーションが進むなかで、国際的な金融システムの安定を図るバーゼル自己資本比率規制(BIS規制)などの国際協調や証券化の進展への対応、そしてまた金融政策の原則の1つとして重視されているテイラー・ルールのあり方などが主なテーマとなる。

 

chapter6 財政と財政投融資

2010年政府債務残高の対GDP比は日本が約200%とその年にギリシャ危機の渦中にあったギリシャの約140%をはるかに上回っている。しかし、2010年以降日本がギリシャと同じように国債価格が暴落して危機に見舞われていないのはなぜか?本章では国債の発行増と金融機関の国債保有増について、日本の公的な資金の流れと金融の役割の視点から説明する。また、「大きな政府から小さな政府へ」の理念の変化のなかで、2001年度に実施され、公的な資金の流れの効率化に寄与した財政投融資改革、そして関連した政策金融改革と郵便貯金問題についてまとめたい。

 

chapter7 貿易・資本移動と外国為替

近年、グロバリゼーションが進展するなかで、日本一国をベースとした金融論だけでは実際の金融の役割を考えるうえで、十分とはいえない。諸外国との貿易・資本移動や外国為替などは、金融の実際と理論を理解するために不可欠な要因となっている。従来、国際金融論として金融論とは別に、専門的に取り上げられることが多かった、国際収支、外国為替決定理論、国際資本移動と国際金融のトリレンマ、そして近年、大きな財政・金融問題として世界の関心事となっているユーロの危機などを解説し、金融の実際をグローバルな視点から考える一助としたい。

Part2 理論編

chapter8 金融のミクロ理論

金融のミクロ理論とは、経済主体の家計や企業、そして資金仲介者の銀行などの金融行動に焦点を当てて、そこからこれまで実際編で述べてきた金融取引の機能や金融市場のしくみを分析する理論である。家計は貯蓄額や運用方法をどのように決めるのか、また、企業は資金の調達額やその方法をいかに選ぶのか、本章では家計と企業の金融行動について、まずリスクがない前提で述べ、次いでリスクの概念を導入した基礎理論を解説したい。また、日本の銀行行動について理論分析も行ないたい。

 

chapter9 金融のマクロ理論

本章では、金融のマクロ理論・国際金融理論を体系的に説明する。そのためにまず物価は外生的に与えられて一定であるとの前提で、資金循環勘定から IS‐LM 分析を導出し、金融政策とその効果を検証する。続いて物価が内生的に変動する総需要-総供給モデルへの拡張を行なう。さらにこれらの静学的モデルに人びとの期待の変化を織り込んで、金融政策のあり方を考える。最後に、以上の閉鎖経済体系の一国モデルに付け加えて、日本の経済・金融がグローバル化の波にさらされていることを念頭におきつつ、国際金融理論のなかの IS‐LM‐BP モデルを用いて、開放経済体系における金融政策・財政政策の効果を考察する。

本連載は、2017年4月15日刊行の書籍『金融経済 第3版 実際と理論』3、29、47、69、95、127、159、195、227頁に掲載の前文を転載したものです。その後の改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

金融経済 第3版 実際と理論

金融経済 第3版 実際と理論

吉野 直行,山上 秀文

グローバル化する金融経済の動きを実際面から解説し理論へと昇華させる「金融論」テキスト。 経済、財政、国際金融などの関連分野に触れつつ、金融経済の実際を幅広く解説。また、理論から実際へと展開する通常のテキストとは…

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