日本の喫緊の課題は「景気対策・成長戦略」
本書、『金融経済 第3版 実際と理論』(慶應義塾大学出版会)は、最近の金融経済の動きを、実際と理論の両面から解説する「金融論」の標準的なテキストを目指している。想定する読者は学部の上級年次の学生、ならびに金融経済の動きに常日頃、強い関心を持ち、基本に立ちかえって理解を深めようとする社会人である。
近年、日本の経済・金融はグローバル化の波にさらされている。またデフレ、大量の国債発行、低成長が続くなかで、政府、日銀による適切な財政政策と金融政策の組み合わせによる景気対策と成長戦略が喫緊の課題となっている。
しかしながら、従来の「金融論」のテキストの多くが、日本国内に限定された金融制度論、あるいは金融経済の実際の動きとは少し離れた金融理論の解説に偏っていて、新しい内外の金融経済の課題を考える力を、読者に養ってもらうためには使いにくいものとなっていた。
著者たちは、それぞれの金融関連分野で研究を継続する一方で、教育の現場で金融論とその関連科目を教えてきた。具体的には吉野直行は慶應義塾大学経済学部で、また山上秀文は近畿大学経済学部と慶應義塾大学通信教育部で学生と社会人に対して最新の金融経済について教えるなかで、時代の要請に応えた「金融論」のテキストを書く必要が出てきた。今般ようやくできあがった本書は、全国の大学での「金融論」の標準的なテキストとして活用されることを願うものである。
金融経済の課題について「自ら考え」問題意識を持つ
本書の構成は実際編と理論編に分かれている。実際編では第1章から第7章まで資金循環と資金の過不足、企業の資金調達と投資、金融商品のリスク制御と価格計算、金融機関の仲介機能と証券市場、金融行政と金融政策、財政と財政投融資、貿易・資本移動と外国為替と幅広い実際のテーマを理論的な分析も交えつつ、取り上げている。また、理論編では第8章で金融のミクロ理論を、第9章で金融のマクロ理論・国際金融理論を体系的に説明している。
その特徴の第1は、経済、財政、国際金融などの関連分野に触れつつ、金融経済の実際を幅広く解説したこと、第2は、まず実際編で新しい内外の金融経済の実際の動きについて述べ、そのあとで、理論編でミクロ・マクロの両面から体系的に金融理論を説明し、通常のテキストとは逆の順の構成とすることで、理論の体系的勉学を実際との関連で興味を持たせるようにしたこと。
第3は、できる限り数式は最小限にとどめつつも、図表を多用することで、かなり深く広範囲な金融経済の実際と理論の理解を容易にしようとしたこと、第4は、バーゼルⅢやインフレ・ターゲティングとテイラールールなど、内外の新しい金融経済の検討課題について著者たちの政策提言も含めて、読者に自ら考えさせ、問題意識を醸成するような工夫をしたこと、などがあげられよう。