今回は、介護現場でよくある、「仕事を任せられない」「役割が明瞭でない」といった問題の解決法を、人材育成の面から考えていきます。※本連載は、社会保険労務士、社会福祉士の資格を活かしたコンサルタントで、「福祉介護業界」に特化した人事制度や労務管理へのアドバイスを全国の顧問先で行う、株式会社シンクアクト代表・志賀弘幸氏の著書、『ビジネスとしての介護施設』(時事通信出版局)の中から一部を抜粋し、介護施設の経営改善策を解説していきます。

スムーズな連携には「任せる範囲を決める」ことが必要

介護現場の「人財化」は急務です。「人財化」とは「人材を人財にしていくこと」です。特に事業規模が拡大傾向にある事業者が成功するか否かは、「人財化」がポイントになります。そして、組織拡大の過程の中で避けて通れないのが、「自分以外の人間に活躍してもらうこと」です。

 

例えば、人材の採用をしたものの、「人財」になってほしいという想いとは裏腹に、「人材」どころか「人在」「人罪」になってしまうこともあります。これにはいくつもの原因があるかと思いますが、まず一つの原因に「任せる範囲がわからず、任せられない」というものがあります。

 

人間は「似たような想い」にはなることはできても「全く同じ想い」になることは不可能です。ある程度の擦り合わせは可能ですが、全く同じにはなれないということをまず理解することが大切なのです。自分基準は、相手基準ではないということを。

 

そこで重要なのが「相手の基準を知る」ということです。相手がどのレベルかを知ることをせずに、自分の基準や期待だけに意識を向ければ当然ギャップは生じてしまいます。部下を育成する際にも、部下の能力や経験を理解した上で、「ここまでならできる人だが、これ以上は少し難しいので、そこは自分がフォローしよう」と思えば「任せる範囲」が決まります。

 

事業の連携においても同じことが言えます。自社と連携する企業との役割分担、つまり相手企業との間で「任せる範囲」を決めておくことが、スムーズな連携には必要です。人材の育成においては、この作業を繰り返すことで、上司は「任せる」ことを覚え、部下は「任せられることで自分の成長を感じる」ことができるのです。

 

「人材」を「人財」にする「人財化」には、この「任せる範囲」の理解が重要です。

「自分でやった方が早い」では部下は育たない

また、介護現場でよく言われる課題といえば、「役割が不明確」ということです。慢性的な人材不足から、少ない人数で現場を回すことが普通になっています。少ない人数ですから、一人当たりの役割も当然増えます。今までにやったことのないことまでやらなければならない場面も多く発生しています。そのようなことの積み重ねが、本来の業務なのか、補佐的、臨時的に行う業務なのかを不明確にしているのです。

 

どこまでが自分の仕事なのかを示す「役割の明確化」は、今後の介護事業の効率化などにおいても重要な要素になってくるのではないでしょうか。

 

他にも「任せられない」原因はあります。「自分でやった方が早い、間違いも少ないから安心だ」という意見です。

 

しかし、このような状況が続くと次のようなことが起こります。

 

①部下が成長しない

②部下の積極性がなくなる

③課題解決力が育たない

 

最大の罪科は「部下の成長の機会を奪っている」ということです。部下から見れば「何でもやってくれる上司」となるわけで、これでいいわけはありません。「自分がミスしても上司がカバーしてくれ、責任を取ってくれる」なんて思われてしまっては困ります。上司が取る責任と部下が取る責任には大きな差があります。意味が違います。責任を感じることは、自己成長には必須事項です。次に同じミスはしないという思いになることが重要なのです。

 

「自分がやった方が早い」と言って、本来の部下の仕事を上司がやってしまうことの弊害を考えなければなりません。

 

そして、介護業界では「未経験者」の力が必要になっています。入社した部下を、「大変な仕事ばかりやらせると辞めてしまうかもしれない」などと腫れ物に触るように扱うことはその本人にとってはマイナスになりますので、「自分でできることは積極的にやらせてみる」という姿勢が重要です。その結果次第で、「任せる」仕事も増えてくるはずです。

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