今回は、介護保険制度を使わない「自費サービス事業」について、ビジネスの可能性を探ります。※本連載は、社会保険労務士、社会福祉士の資格を活かしたコンサルタントで、「福祉介護業界」に特化した人事制度や労務管理へのアドバイスを全国の顧問先で行う、株式会社シンクアクト代表・志賀弘幸氏の著書、『ビジネスとしての介護施設』(時事通信出版局)の中から一部を抜粋し、介護施設の経営改善策を解説していきます。

介護保険制度の補完ではない「自費サービス」

介護業界は介護保険法、障害者総合支援法、児童福祉法など、ルール遵守とコンプライアンスが要求される制度の中で成立しているビジネスであるということは前回お伝えしたとおりです。

 

いま国は、2025年を目途にした「地域包括ケアシステム」の構築に向けて、福祉・介護・医療業界と普段の生活の連携を重視した仕組みをつくろうとしています。従来の要介護者などを主とした介護を必要とする方を対象としたサービスだけではなく、自立や要支援の方を対象とした「生活支援サービス」「健康支援」など、高齢者全体を対象とした支援に広がっていくことになります。

 

その広がる領域については、介護保険制度を活用しない支援体制の構築を検討しています。まさにこの領域は新しいビジネスチャンスと捉えることもできるのではないでしょうか。いわゆる「自費サービス」です。ただ、この「自費サービス」については、介護保険制度の補完というよりは、マーケット対象が異なる新しいサービスとして普及させるような考え方が必要ではないかと私は思っています。

 

利用者側から見れば、1割負担であった「家事支援」などが2割、3割と負担が増え、内容によっては完全自費になるかもしれないという不安からなかなか受け入れられないという状況があります。一方、既存の介護サービスを提供している事業者側から見ると、従来の報酬単価よりもさらに安価になることから、本格的に「生活支援サービス」へ参入することは経営的に厳しく、慎重な事業所も多いのが実状です。

「生活支援サービス」にチャンスを見出す企業も多数

しかし、2015年4月以降、一部地域ではその実践も実験的にスタートしていますので、その動向にも注目する必要があります。制度的には「介護予防・日常生活支援総合事業」(新総合事業)のガイドラインがあり、その内容を把握することで、今後の事業計画などにも検討すべき事項が出てくるのではないでしょうか。

 

2025年には団塊の世代が75歳以上になりますが、この世代は比較的仕事などでパソコンを使っていますから、パソコンが活用できないということも減っていることを予想して、新しい取り組みを考えていくことが大切です。すでに生活支援サービスを始めている事業者の方にお話を伺うと、「既存の介護サービスをコア事業として一層活かすためには、自立の高齢者や予防を重視する高齢者などターゲットを広げたサービス支援が必要であり、自分の事業所のファンづくりを目的にしている」とおっしゃいます。

 

現状、新サービスで利益を出すというよりは、将来の見込み客を獲得するというファンづくりに視点を置くこと、また新サービスの商品開発的なテストマーケティングという意味で、そして将来的にコア事業を利用していただくような方向性で実施しているように思えます。

 

それから、現時点で介護事業に参入していない企業も、この「生活支援サービス」にはビジネスの可能性を感じてすでに動きだしているようです。このような企業にとっては、新総合事業という制度を活用して事業拡大をしようという発想です。既存の介護サービス事業者にとっては、報酬単価が下がるというイメージですが、新規参入組にとっては、少しでも報酬がもらえるのであれば、参入を検討する余地あり、ということでしょう。すべてを企業負担で実施しようとしていた事業が、新総合事業の制度が活用できるようなアイデアを考えています。今後はこのような新規参入企業にも注目です。

ビジネスとしての介護施設

ビジネスとしての介護施設

志賀 弘幸

時事通信出版局

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