今回は、介護事業の運営に「助成金」や「法律」への理解が不可欠な理由を見ていきます。※本連載は、社会保険労務士、社会福祉士の資格を活かしたコンサルタントで、「福祉介護業界」に特化した人事制度や労務管理へのアドバイスを全国の顧問先で行う、株式会社シンクアクト代表・志賀弘幸氏の著書、『ビジネスとしての介護施設』(時事通信出版局)の中から一部を抜粋し、介護施設の経営改善策を解説していきます。

助成金には「打ち切り」のリスクがある

これは実際にあった、あるクライアントからの相談です。

 

「人材育成をしたい、そして助成金も活用したい」とのご相談がありました。「介護の人材育成はとても重要ですから、お手伝いします」と快諾して、人材育成計画の作成から申請手続きも行い、1年にわたる研修がスタートしました。人材育成計画では、1年目にリーダー研修と新任教育、2年目に中堅職員研修、3年目に評価制度構築研修の内容を相談の上、決定しました。

 

ところが2年目の研修に入ろうとしたときです。予定していた助成金が廃止になってしまい、当初予定の約6割の別の助成金を活用せざるを得なくなり、相談しました。すると、社長から「今年は予定していた助成金がないから人材育成は中止します」との連絡がありました。これは結構ある事例です。

 

実際、近年の助成金は研修などが終了後に支給申請して受給する形式ですから、研修スタート時は事業者に一時的に費用負担をお願いしなければなりませんので、負担が出てくることはご理解いただいた上でスタートします。

 

先の社長は、「お金がないから人材育成の費用がない」という理由でした。

 

確かに報酬減額改定による影響もあり、厳しい面もあるかと思います。研修会社やコンサル会社もボランティアではありませんので、費用負担ができなければ研修を開催することはできません。

 

一方で「人材育成は投資である」という考えから「人材育成は絶対重要、その上で助成金があれば活用したい」というスタンスの社長もいらっしゃいます。全国で多くの事業所を見てきていますが、やはりこのような事業所は、総じて事業所のレベル、介護サービスのレベルは高いのです。

 

助成金はあくまでも「補助」である、ということを理解した上で活用することが重要です。そして助成金については、制度が突然変更されたり、制度が廃止されたりすることもありますので、助成金に感度が高く、精通した社会保険労務士と、常日頃から連携しておくことも役立つと思います。

法律問題に対処するため「士業」との連携は必須

いま、福祉・介護業界では、認知症の急増や虐待問題、また詐欺事件の増加などから「利用者の権利擁護」「人権保護」などについても深刻な問題となっています。成年後見制度や財産管理、年金相談、相続問題など、高齢者の生活場面に関連する法律的な相談も増えています。

 

例えば、成年後見制度、相続、財産管理などは「弁護士」「司法書士」などが、年金相談などは「社会保険労務士」が、税金に関する相談は「税理士」が相談にのることができます。私が理事を務めている「一般社団法人福祉経営綜合研究所(通称:ふくしまる)」では、「サポーター」と称した士業が、会員企業からの相談にのることができます。現在は、弁護士、司法書士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、行政書士にご協力いただいております。

 

多くの福祉・介護事業所を回る中で、ご利用者自身やそのご家族、親類など、このような問題を少なからず持っており、実は相談したいと考えている方が多いことがわかりました。小規模な事業所が多い業界ですから、個別に顧問契約する費用も負担がかかることからこのような体制を整える社団法人が必要であると考え設立しております。

 

ご関心のある方は、「ふくしまる」で検索いただき、ホームページをご覧ください。

http://www.fukushimaru.jp/

ビジネスとしての介護施設

ビジネスとしての介護施設

志賀 弘幸

時事通信出版局

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