サービスの充実には「職員満足度」の向上が不可欠
どの介護事業者も、利用者満足度(Customer Satisfaction = CS)を高める努力は日々精一杯行っておられることでしょう。介護サービスの充実とは何か、介護サービスの質の向上についてどうすべきか、常に考え進めておられるはずです。
そして、言うまでもないことですが、そのサービスを提供しているのは介護スタッフです。つまり介護サービスの充実、質の向上のためには、そのサービスを提供するスタッフ自身が自分の仕事や待遇に満足していないと、充実したサービスは提供できないというのも事実です。
スタッフの「ココロの充実」「働く環境の向上」に取り組まなければ、その達成は難しいということになります。
職員満足度(Employee Satisfaction = ES)を高めることなしに、利用者満足につなげることは難しいのです。にもかかわらずそのことに気付かない経営者は、「サービスの質を上げよう」という掛け声ばかりを先行させてしまい、スタッフ周辺の働く環境の整備が遅れていることが少なくありません。介護現場における課題はさまざまありますが、多くの介護現場を見る中で、特に「働く環境の整備」についての二極化が進んでいるように感じます。
規模によって「働く環境の整備」の仕方も異なる
では、働く環境の整備とは何を行えばいいのでしょうか? 介護業界の特徴に「小規模事業者が多い」ということがあります。小規模な組織は大規模な組織よりもまとめることは簡単だという声をよく耳にしますが、実際は小規模な組織ほど、人間関係の問題が難しいものです。
例えば人事異動。大きな組織であれば他部署への異動などが可能ですが、小さな組織では異動する部署がないため、人間関係が悪化してもそのまま異動することなくじっとしていなくてはならないケースも多くあります。小規模な組織ほど、常に細心の注意を払いながら組織運営をしなければならないということです。
一方で、大規模な組織における「働く環境の整備」については、ルールを徹底することが必要です。組織が大きくなるに従い、多様な人材が存在することになります。多様な人材ですから考え方も経験も違うことが大前提ですので、それら人材をまとめるにはルール・規則の遵守が重要なのです。
職場では労働基準法や就業規則が働く上での基本的なルールになります。中でも就業規則については、その作成から経営者自身が検討して策定したのか否かということが、組織運営において非常に重要になってきます。よく見るのは、インターネットから就業規則を拾ってきて、その内容を検討することもなく、自社に応じた語句に変換した程度で労働基準監督署に提出しているケースです。
就業規則の内容を把握しないまま企業経営をしているという実態は、多くのリスクが潜んでいます。経営者は今一度、自社の就業規則などを熟読し、必要に応じて時代や組織規模に即した内容に変更することも必要になってくるでしょう。
働く従業員・スタッフは、ルールや体制など働く土台が安定し、安心して働くことができる職場を求めています。その上で、小規模事業所の課題にあるような良好な人間関係の構築にも取り組んでいかなくてはなりません。
しっかりした「人材育成計画」が離職率低下に繋がる
その他にもESの高い職場環境の形成になくてはならないものに「教育」があります。介護は「ひと対ひと」のサービス業です。サービスの質を上げるということは「ひとの質を上げる」ということに直結します。この「ひとの質を上げる」方法の一つが「教育」なのです。
つまり「人材育成」は、サービスを向上させるのであれば半永久的に必要なものになります。この「人材育成」についても介護業界では二極化が進んでいるように感じます。先進的で積極的な事業所は、「人材」を「人財」にするための計画づくりをしています。人材の採用、人材教育(ティーチング)、人材育成(コーチング)、人材定着の仕掛けなど、しっかりとした計画になっています。
そして人材育成計画が個人レベルで設定、管理されている事業所も増えています。このような事業所で働くスタッフは、目的や目標が明確になっているため、仕事のやりがいなどを感じやすく、結果的に離職率の低下にもつながっています。
定着率の高い職場は、職員の満足度も高い傾向がありますので、その満足感がご利用者にも伝わっています。スタッフの笑顔が多い事業所はご利用者の笑顔も多いということは、多くの施設を見てきて強く感じます。「スタッフが働きやすい環境とは何か」について、今一度、じっくり考えてみてはいかがでしょうか。