日本企業は保険会社の説明を簡単に受け入れるが…
日本企業の一般的な傾向として、保険に加入する際に、比較的精緻に約款を検討したり、どの保険会社とどのような保険契約を締結するかなどについての選択はある程度慎重に行うものの、いざ災害などが起きて、損害の回復などのために保険金を請求する段階になると、付保範囲や免責の範囲などをめぐる解釈について、保険会社の説明なり解釈なりを比較的すんなりと受け入れ、
「これは定型の約款なのだから仕方がない」
「別の形や内容で契約を締結すべきだったが、今回はその解釈や運用なのだから、今後の締結に関しては気を付けよう」
といった具合に、消極的な対応を行う場合が多いようである。
しかし、ここまで述べてきたように、保険契約の解釈、運用や保険金の支払範囲、他の法律など、一般条項との関係等、かなり幅があるのが現実であり、関連する状況や当該案件においての特殊な条件などを考慮することによって、保険会社との交渉や、場合によっては訴訟を提起することでその幅を動かすなど、努力の余地があることを銘記すべきである (※)。
(※) 日本ではまだまだ普及していないが、米国などでは巨大ローファームに保険金請求訴訟等を専門とするチームなども構成されており、そのようなクレーム・交渉・紛争解決のプラクティスがいかに普及しているかを物語っている。
交渉や訴訟などを有利に展開させる「証拠」を準備
また、その際に、上記のような管轄の選択や準拠法について戦略的な主張をしていくことによって、交渉や訴訟などを有利に展開させることも検討すべきである。
例えば、多くのスタンダードな契約・約款では、準拠法が必ずしも明確でないこともある。そのような場合、例えば、日本の保険会社が示してきた解釈や運用について、米国やヨーロッパなどにおける運用状況を説得材料に使ったり、グローバルなスタンダードを証拠とともに示すなどして戦略的に交渉や訴訟などを展開していくことが望まれる。
また、そもそも、そのような方法や余地がある、という事実自体を認識した上で、災害等に基づく多額の保険金請求を行う場合には(一般に保険会社の保険金支払も慎重になる傾向を考慮し)、早い段階から保険法を専門とする弁護士に相談し、保険金請求を戦略的に行うとともに、仮に保険会社から免責主張や減額主張等がなされた場合の対応にも備えておくことが望ましいと考える。