補償対象になることが多い「事業中断による機会損失」
「オールリスク担保」保険は、最も一般的に利用され、災害事態に最も信頼のおける保険であるといえよう。我々が「保険」という用語に言及する際、通常、頭に浮かぶものである。
かかる保険の最も基本的な形は、いわゆる「第一当事者」すなわち財産損害によって損害を受けた保険契約者の財産を交換又は修繕する費用を負担する。
一般的に、この補償は、建物、設備、家具そして在庫のみならず、コンピュータ・システム、ソフトウェア、記録さらには電磁的データの補償も網羅する場合がある。現在では、ほとんどの事業が電子データに大きく依存しているので、必ず保険を見直し、こうした分野の有形・無形の財産が明確に補償の対象となっていることを確認すべきである。
また、一般的に「オールリスク担保」保険は、事業の中断による機会損失を補償の対象とする場合が多いとされる
1. 第一当事者財産損害の補償
再度、強調するが、「オールリスク担保」保険の条件と範囲はさまざまである。多くの事業で最も重要なリスクは、有形・無形財産の損失・損害ではなく、むしろ、失われた財産を修繕・交換するために、業務を中断・縮小する間に生じ得る営業上の損失である。
かかる事業にとって、財産を交換・修繕する際の最も重要な側面は、業務の再開に向けた交換・修繕である。重要な財産の修繕・交換を促進するために、必要な資金を直ちに確保することが重要である。
多くの保険では、事業の再開を促進し、事業再開に伴う損失を最小限とするため、保険契約者が臨時に、仮に、又は新たな場所で業務を行えるよう「特別費用(extra expenses)」又は「修繕促進費用(expediting expenses)」といった個別の給付を提供している。
例えば、休止された生産設備を暫定的に稼働させる、廃物利用が可能な器材を臨時の設備に移動させる、あるいは臨時に場所と機材を借りるなど、部分的な業務を特別費用で行える場合がある。
同様に、会社の主要な生産設備の回復を促進できる場合もあるが、追加の労務・器材費用が発生してしまう。通常、かかる特別費用及び修繕費用の補償は、その全般的な効果によって、保険契約者の事業中断損失のリスクが低減する場合にのみ適用される。
自社の保険を見直し、かかる追加の補償が提供されていること、そしてどのような状況で追加の補償が適用されるかを理解する必要がある。損失が生じている状況では、こうした費用をかければ、実際に保険会社が填補する損失全体が減少することを、保険会社に立証する必要がある。
また、自身の「オールリスク担保」保険が損失をどのように算定しているかを理解することも重要である。財産は減価償却されるため、単に財産の減価償却後の価格を支払うのではなく、財産の再調達価格を補償する保険が望ましい。前者の保険であれば、残余損失が出る結果となる。
損失額が大きいと補償範囲についての紛争が起きやすい
発生した損失の額が大きい場合、保険の補償範囲についての紛争が起きやすい。一般的に、物理的な損失が広範囲で、事業中断損失を数量化しなければならない場合、損失の数量化が難しいことが多い。
そのような場合、保険会社は、損失の各要素を注意深く調査し、通常は損失の要素を争う。損害の立証資料が満足できるものであり、請求のすべての要素が十分に裏付けられていることを確保するために、法律・財務の専門家のサポートを受け、請求可能性及びその範囲について早期に確認する必要がある。
紛争の範囲には次のものが含まれる。
(1)不実表明
保険契約者が、保険証券が発行された時点でリスクの全要素の適切な開示を怠った旨は、保険会社によって主張される場合がある。その結果、保険契約者が保険を最も必要としているときに、保険全体を無効とすることが正当化される場合がある。このため、引受けの段階で財産が正確に記載されており、申請書にすべての価格が適切に開示されていることが不可欠である。
(2)数量化
財産の価値又は再調達価格が、保険契約者が主張するものより低いあるいは低くすべき旨保険会社が主張する場合がある。また、事業中断損失について紛争が起きる可能性もあり、歴史的な傾向、時季的な傾向、経済状況等の要因に焦点が当てられる場合がある。
事業中断損失は「そうでなければどうなっていたか」という点に焦点を当てるため、証明するのは本質的に難しく、当初から資格を持った財務・経済の専門家を分析に加えることが不可欠である。一般的に、すべての財産損失を完全に文書化するのは非常に重要であるため、最初からフォレンジックを専門とする会計士を雇用すると有利である。
(3)損害拡大防止/軽減
多くの保険は被保険者に対して、財産を保全し、損害を最小化する積極的な義務を負担させている。したがって、回収できる財産があれば、その価値を回収するのが重要である。
(4) 除外されるべき損失原因
多くの保険では、地震や洪水といった特定の原因に基づく保険金請求権を明確に除外している。しかし追加の保険金を支払い、特約条項を付ければ、かかる範囲も補償に含めることができる。自社の保険の補償範囲を正確に理解し、自社のリスクに見合うように、必要であれば特約条項を付けることが重要である。
例えば洪水といった、損失の特定の原因が除外されていても、損失が生じた場合には、「同時因果関係」による補償の可能性を探ることが重要となる。
多くの管轄地では、除外された原因によって損失が生じた場合でも、補填範囲に含まれた又はカバーされた損失の原因が、かかる損失に寄与したため、補償の対象となる場合もある。
例えば、米国南部でハリケーン・カトリーナが発生し、ニューオーリンズに厳しい被害をもたらしたとき、いくつかの裁判所は、除外規定の存在にもかかわらず、上記の同時因果関係によって、補償を正当化できるとした。
すなわち、当該裁判所は、過失(例えば堤防の建設において)や風被害が損害に寄与した、あるいは損害の主因だったと判断して、因果関係を肯定した(※1)。
(※1)Tuepker v. State Farm Fire & Cas. Co.、 No. 1:05CV559 LTS-JMR, 2006 WL 1442489, at *1-2(S.D. Miss. May 24, 2006)、一部受領、507 F.3d 346(5th Cir. 2007)
米国における多くの管轄地では、補償の対象となっている原因が損失の一部に関連する場合、損失全体が補償範囲に入るという立場をとっている(※2)。米国の他の管轄地及び他国はこうした立場をとらないとするものもある。
(※2)主要な事件は、State Farm Mut. Auto. Ins. Co. v. Partridge, 514 P.2d 123, 124-25(Cal. 1973)(補償範囲の原因と、範囲外の原因によって生じた損失全体が補償範囲となった)である。カナダの最高裁判所は、複数の理由がある場合、補償の範囲から除外されるのは、範囲外の原因による損失のみであるとした。Derksen v. 539938 Ontario Ltd.[2001]3 S.C.. 398, 205 D.L.R.(4th)1, 153O.A.C. 310。実務的にこれは保険会社に補償の範囲外である損失を証明させることになり、かかる立証がなければ、損失全体が補償の範囲となる。
このため、補償範囲に対する紛争が複数国間で発生し得る場合、例えば被保険者の本部がある国に所在するが、実際の営業地が別の国にある場合等、保険約款記載の準拠法を含め、どの法律が関連するかについて精査する必要があろう。
この話は次回に続く。