前回に引き続き、海外での災害事態に備える「オールリスク担保」保険について説明します。※本連載は、オリック東京法律事務所の外国法共同事業訴訟部、代表パートナーの髙取芳宏氏と、同じくオリック東京法律事務所の外国法共同事業訴訟部パートナーの矢倉信介氏の編著、『最新 クロスボーダー紛争実務戦略』(レクシスネクシス・ジャパン)より一部を抜粋し、災害時における保険金請求の実務について説明します。

ほとんどの事業保険には、事業中断への補償があるが…

前回の続きである。

 

2. 事業の中断に対する補償

 

損害を受けた財産の修繕・交換に加え、現在ではほとんどの事業保険で事業の中断に対する補償を提供している。

 

第一当事者財産損害の補償(上記で説明)と異なり、事業の中断に対する補償は、営業が中断又は縮小されたことによる事業機会の損失を補償する。補償の標準は、災害が発生しなかった場合に実現された利益となる。

 

既に述べたように、これは事業が被り得る損失の最も重要な要素であり、物理的な財産に対する実際の損害さえも考慮される。損失が発生するとき、保険会社の満足する方法で損失を定量化するため、通常は高度な財務・経済分析が求められる。

 

そして、損失の量が、しばしば保険会社と保険契約者の間で争われる最も大きな問題の1つとなる。このため、損失が生じた場合は、速やかに法律・財務の専門家の支援を確保することが重要となろう。

 

なお、すべての保険契約が事業の中断に対する補償を含んでいるわけではないことに留意しなければならない。自社にとってかかる補償が必要と考えられるならば、当該補償が必ず提供されるよう、保険契約の内容を十分に精査する必要がある。

因果関係、定量化…補償範囲に関する紛争は多い

前述のとおり、損失が発生した場合、保険会社と保険契約者の間で紛争が生じる可能性を有する、補償範囲上の主要な問題点がいくつかある。

 

(1)因果関係

事業の中断は、それが保険の第一当事者損失条項で補償される範囲内の財産の損害によるものであるときにのみ補償される。このため、同財産の損害と事業の中断との間に直接の因果関係がない場合、保険会社は「補償対象である財産の損失」によって事業の中断が生じたか否かを争う場合がある。

 

例えば、かかる中断は、補償対象外の当事者(例えば主要な供給業者)の財産の損害によるもの、あるいは補償対象外の原因(地震など)によって生じるものがあり、その場合は事業の中断に対する補償は受けられない。

 

(2)定量化

特に、得べかりし利益が損失に関わっている場合、保険会社は損害額について、事業の経歴、競合条件、及び経済サイクルを考慮に入れながら争うことがある。これは事業の中断に対する補償に関して最も一般的に生じ得る紛争類型であり、保険契約者の請求を支援するために専門の会計士のサポートが必要となる。

 

(3)損失軽減

事業を回復させ、損失を軽減させるために、業務を修復、移転、又は外注化するための速やかな措置をとらなかったなどとして、保険会社が保険契約者の落ち度を主張する場合がある。

 

(4)一時的な制限

補償対象となっている事業の中断は、通常、期間が限られており、市場シェアの永久的な損失を含まない。

 

上記に述べた内容は、通常の紛争分野のほとんどを網羅しているが、すべてではない。保険分野を専門とする弁護士がいれば、保険会社との間に紛争が生じた際に解決するためのサポートとなるだけでなく、早期にコンタクトを取ることによって、当該コミュニケーションについては秘匿特権の対象にすることができると同時に、想定される争点を早期に把握することができ、保険請求に伴うリスクを最小限にすることが可能となる。

最新 クロスボーダー紛争実務戦略

最新 クロスボーダー紛争実務戦略

髙取 芳宏,矢倉 信介

レクシスネクシス・ジャパン

日本企業が戦略的にクロスボーダー紛争の予防・解決を図るための具体的な実務対応をアドバイス 近時のビジネスは、クロスボーダー化していることはもちろん、紛争事案も複数の管轄が絡む複雑なものとなっているため、これに…

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