前回は、絵画の持つ「社会的承認価値」について考察しました。今回は、大きく値崩れしない資産とされる「モダン・アートの絵画」について見ていきます。

購入者の多くは「金融資産」の魅力も感じている!?

私の画廊では、数万円の版画から数千万円の油彩まで幅広く取り揃えているため、いろいろなお客様がいらっしゃいます。ご進物として予算を決めて買いにいらっしゃる方、ご家族でリビングに飾る絵を探しにいらっしゃる方、うちのホームページに以前から探していた作品があったので見たいと来られる方、資産として有名画家の高額作品をコレクションされている方、購入の目的はさまざまです。ただ、一つだけ言えることがあるとするならば、どなたも芸術的価値と社会的承認価値と金銭的価値のすべてに魅力を感じていると思います。

 

芸術的価値、つまり絵を買う人が、その絵を気に入っていることは間違いありません。また、社会的承認価値、つまり美術品を所有することに、晴れがましい気持ちや高揚感を覚えていることも感じられます。さらに、自分の買った作品が将来、今より価値が上がってほしいとの期待も多少は持っておられるようです。もっと言ってしまえば、絵を買う人は、自分の好きなこと、楽しいと感じることに素直に向き合える自我があって、内面が豊かな方が多いように思います。

 

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私は時々思うのですが、同じようにお金を持っていても、絵画を購入したりコンサートを聴きに行ったりと自分の内面を磨くために使う人と、ブランド品や車やアクセサリーのように自分の外面を飾り立てるのに使う人がいます。画廊のお客様は、どちらかといえば前者が多いような気がします。とはいえ、実際に絵を買うためには、ある程度のまとまったお金が必要ですし、私自身、ビジネスとして画商をしているので、お金の話は避けて通れません。また、絵画を買うのは美術に対する愛のある方ばかりですが、その方たちが同時に、金融資産としての魅力を感じていることも否めません。

21世紀になってアートに対する金銭的評価は大きく増加

21世紀になってからというもの、アートに対する世間の金銭的評価は大きく増加しました。サザビーズやクリスティーズといったオークション会社の名前は、1980年代にはそれほど知名度が高くなかったものの、今では誰もが知っている一般常識になっています。

 

書籍『巨大化する現代アートビジネス』(ダニエル・グラネ、カトリーヌ・ラムール著/紀伊國屋書店)によれば、「1990年から2000年にかけて、コレクターによるアート作品への投資額は120倍」になったそうです。2000年から現在にかけても、美術品の価値は高まるばかりです。絵画の高額売買記録を見ると、そのおよそ8割が2000年以降の取引となっています。

 

基本的に、ある程度評価の定まったモダン・アートの絵画は、世の中の価値観が180度ひっくり返るような変動がない限り、大きく値崩れしない安定した資産です。そもそも私ども画商は、何百万円、何千万円もする絵画を資産(在庫)として抱えているものです。もし絵画の価格変動が大きくて、いつ紙くずになるかわからないと考えていたら、証券会社のように自分では買わずに仲介業務に徹するはずです。

 

ところで、今、私はモダン・アートという言葉を使いました。「モダン」という英語を日本語に直すと「現代」とか「近代」とかいう意味になります。しかし、現代美術といってしまうと、それは多くの場合、村上隆や草間彌生のようなコンテンポラリー・アート(同時代の美術)を指します。そしてコンテンポラリー・アートは、まだ歴史的な評価が定まっていないので、モダン・アートに比べて、40年、50年後も現在の価格を維持しているかどうかはわかりません。

 

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本書で扱っているのは、美術史的な評価の定まったモダン・アートです。それは、日本では「近代美術」と翻訳されています。「近代」とは、21世紀の現時点では、19世紀から20世紀半ばを指します。おおよそ50年前より以前が近代という考え方です。本書(『「値段」で読み解く魅惑のフランス近代絵画 』)で扱っているモダン・アート(近代美術)は、19世紀後半の印象派から20世紀前半のエコール・ド・パリ(パリ派)までです。そのくらい昔の作品であれば、歴史的な評価も大きくは変わることなく、安定した資産として計算できるからです。

本連載は、2017年4月28日刊行の書籍『「値段」で読み解く魅惑のフランス近代絵画 』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「値段」で読み解く 魅惑のフランス近代絵画

「値段」で読み解く 魅惑のフランス近代絵画

髙橋 芳郎

幻冬舎メディアコンサルティング

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