前回は、大きく値崩れしない資産とされる「モダン・アートの絵画」について解説しました。今回は、購入した絵画で価値のあるコレクションをつくる秘訣を見ていきます。

美術コレクションを見れば、持ち主の人柄がわかる!?

かつて、日本人はハードにお金をかけるが、ソフトにはお金をかけないといわれた時代がありました。家は立派なのに家具、調度類はお構いなしといった感じです。しかし時代は変わりました。私は、人の家に招かれて、センスの良い家具、おしゃれな絨毯やカーテンでコーディネートされた部屋に通されると、そこに住む人の豊かな人間性や気品を感じて、憧れを抱くことがあります。さらに、そこにセンスの良い美術品があったりすると、その方の知性や教養が垣間見えるようで、もっと話をしてみたいと思ったりします。

 

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私は、美術コレクションを見れば、持ち主の人柄がわかると思っています。うちのお店のお客様の中には、代々続く資産家の方もいらっしゃいます。そして、先代や先々代が集められた美術品、掛け軸や日本画、陶器などを、今の代の方が、売却したいとご相談に見えることが時々あります。特に掛け軸や日本画などは保管が大変で、放っておくとシミやカビで駄目になってしまうため、きちんと管理できる方に所有してもらいたいということがあるのでしょう。ご自身では興味がない文化財産を、私的に所蔵して眠らせることなく、ご興味のある方にお譲りするというのも、また教養のなせるわざだと思います。

 

そんなご相談を受けて、お亡くなりになった方が体系的に収集されたコレクションを見せていただいた時、それを収集された方の人柄がしのばれます。たとえば、とある一人の作家を中心にしたコレクションだったりすると、持ち主の偏愛と愛情の深さに、その方の知性と強い意志をも感じます。あるいは、学術的に評価の高い作品ばかりを収集されていた方の場合には、その方の美術史に対する造詣の深さやこだわりに感心することもあります。

 

一方、どのような経緯で購入に至ったのかわかりませんが、名前こそ有名な作家の作品ばかりなのに、格安の二級品ばかりを集められている方もいます。そのような場合には、作家の名前と作品の価格はわかるけど、その作品の価値までは見抜けなかったのかなと、残念に感じることもあります。

情報に振り回されると「芸術的価値」を見落とす

そんな時に思い出すのは、イソップ童話の「金の斧」です。ある木こりが、川にうっかり斧を落として嘆いていると、神様が現れて川の底から金の斧と銀の斧を拾ってきてくれます。しかし、正直な木こりは「それは自分の斧ではない」と答えたので、称賛されて、自分の斧のほかに金と銀の斧も与えられます。それを知った別の木こりは、わざと斧を落として、金と銀の斧をせしめようとたくらみます。しかし、欲の張った木こりは、金の斧を自分のものだと答えたために、不正直さを咎められて、何ももらえませんでした。

 

自分の心に素直になって、自分が本当に好きで良いと思う美術品だけを集めた場合、最終的にその収集品は「金や銀」の価値のある体系的なコレクションになります。しかし、外部の情報に惑わされて、有名な作家の作品や値上がりするといわれた作品ばかりを集めていると、本来最も重視しなければいけない芸術的価値を見落としてしまい、最終的に本人の思惑とは違った価値の低いものになってしまいます。良いコレクションとは、それを集められた方の作り手に対する深い理解と愛情、また、その方の人間性や知性が現れるものだと思います。

 

美術品は、たしかに値上がりも期待できますが、それを目的に集め始めると、おうおうにして期待を裏切られるものです。というのも、単純に価格だけで見れば、株と同じく、値上がりするものもあれば、値下がりするものもあるからです。また、その時点での絵画を取り巻く経済状況によっても影響を受けます。そのため、美術品のプロフェッショナルである画商といえども、10年後、20年後に何が値上がりしているかを、確実に見抜くことはできません。

 

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だとするならば、不確実な情報に振り回されるより、本当に自分の好きな作品を買うほうがいいのではないでしょうか。無垢な心で買い求めたものこそが、その人にとっての「本物」であり、本当に価値があるものとなります。

本連載は、2017年4月28日刊行の書籍『「値段」で読み解く魅惑のフランス近代絵画 』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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