実質的な「財産先渡し」制度
相続時精算課税制度は、贈与でよく紹介されますが、実質的には相続財産を先渡しする制度と考えてください。
贈与を受ける人(子)が将来の被相続人(親の一人)を名指し、「この人からの贈与については、相続時精算課税にする」と申告すると、以後その親から贈与を受けた分は相続税の対象となり、課税されるのは相続が発生してからになります。
つまり、その親御さんが亡くなるまで、税の精算が先延ばしされるのです。
非課税枠の2500万円を超えても贈与できますが、超えた分には一律20%の贈与税がかかります。ただ、このとき納めた贈与税は相続の際に精算され、納めるべき相続税より過剰に納めていれば、還付もされます。
もう一つ注意しなければならない点は、この制度を選ぶと、その親からの財産については、暦年課税での贈与ができなくなる、つまり、基礎控除の110万円の枠が、以後使えなくなるという点です。
なお、他の人からの贈与、たとえばもう一人の親からの贈与については、これまでどおり110万円の基礎控除が使えます。
「相続時精算課税制度」が効果を発揮する三つのケース
相続時に相続財産として精算されるのであれば、「あまりメリットがあるようにも思えない」という人も多いかと思います。そこでこの相続時精算課税制度が節税効果を発揮する三つのケースを紹介しておきましょう。
一つ目は、財産が少なく相続税がかからないケースです。
そもそも相続税が課税されないわけですから、将来の税負担を考える必要はなく、2500万円以内の資産であれば、相続まで待たずに財産を有効利用できます。
二つ目は、収益を生み続ける資産を切り離したいケースです。収益を生む資産といえば、賃貸不動産(収益物件)などです。収益物件は、毎月家賃収入など一定の収入を生みます。つまり収益物件を持ち続けることで、資産はどんどん増えていくことになります(あくまで賃貸経営が順調に進んでいる場合)。
その収益物件を、相続時精算課税制度を使って一括で渡しておけば、譲渡後その物件から生まれる収益は、渡された側のものとなります。つまり、相続に回る財産をこれ以上増やさないようにできるわけです。
三つ目は、これから値上がりする資産を持っているケースです。
相続時精算課税制度では、贈与した時点の価額で相続税が計算されます。例えば土地が値上がりするなどで、相続まで持っていると税負担が増えてしまうようなケースでは、相続時精算課税制度を利用して早いうちに財産を渡しておけば、いくら相続時に値上がりしていようとも、贈与時の安い価額で相続税を計算してもらうことができます。
[図表]