リーマン・ショック時でも価格推移は上昇
アンティークコインが本格的に取引されるようになってから300年以上経ちますが、その長い歴史の中で本当にただの一度も価格暴落は起きていないのでしょうか。
300年の価格推移を網羅したデータは残念ながら存在しませんが、イギリスにはSTANLEY GIBBONS社が作成している「GB200 Rare Coin Index」という指標があります。このデータは、イギリスで発行されたコインのなかで、とくに価値の高い200銘柄の直近20年間の価格推移を指標化したものです。この資料を参照すれば、イギリスの国内不動産の平均価格推移やFTSE(主要株価の合成数値)の株価指数、金の価格推移と併せて、人気銘柄の価格推移を確認することができます(図表2参照)。
実際にアンティークコインの指標をみると、1990年代には大きな変化はなく、2003年から大きく上昇したことがわかります。不動産とFTSEの指数は2009年に大きく下落しました。これはリーマン・ショックの影響によるものですが、アンティークコインの指標は下がらず、むしろさらに上昇しています。10年平均の上昇率は、なんと194.5%です。
2015〜2016年の1年間でさえ、6%も価格が上昇しているというデータがあります。この6%という数字は、2008〜2010年にかけての株式の回復推移率と同等です。ペーパー資産で2年かかった上昇幅を、アンティークコインは1年で達成してしまったということです。しかもそれは、急落からの反発ではありません。
イギリスのような詳細なデータはないものの、他国におけるアンティークコインの価格推移も基本的には同様の傾向があります。特にロシアや中国のように急激な経済成長を遂げた国ではコイン相場の高騰が顕著です。ロシアのコイン相場は2000年から2005年にかけて高騰し、現在でも下落することなく高水準を保っています。同じように中国でも、やはり2000年代に入ってからコインの価格が上昇しています。中国コイン相場は2010年にピークを迎えていますが、これは2015年に発生したチャイナ・ショックを事前に見越した富裕層がコインを買い漁ったためです。
[図表1]1ドル銀貨/1916年造/39㎜
[図表2]イギリス・レアコインインデックスと各経済指標の推移
保有時の維持費がかからず、携帯性が高いのも利点
資産価値の安定性や換金性、そして今後の値上がり期待――それ以外にもまだ、アンティークコインの魅力はあります。それは、入手、保管が比較的容易にできる点です。
アンティークコインは他の資産に比べて、手に入れるための手続きが単純で、価値のある状態を保つためのコストも低く抑えられます。たとえば株式や債券であれば、証券口座を開くなどの手間が必要です。また、不動産を購入する場合にはさまざまな契約手続きや登記をしなければなりません。
一方でアンティークコインは、資金さえ用意できれば他の面倒な手続きは不要です。人気の高いレアコインは日本国外で売りに出されていることが多いのですが、だからといって現地に行かなければ買えないわけではありません。もちろん、実物を見て買うのが理想的ではありますが、インターネットのショップやオークションを利用すれば日本にいながら購入することができます。
コインと同様の現物資産である、絵画や刀剣といった美術品なども比較的容易に入手できますが、保管という面では大きく異なります。
絵画などを良好な保存状態で維持するためには、保管やメンテナンスに相応の手間とコストが不可欠です。一方でアンティークコインは、「スラブ」という鑑定書付きの専用ケースにさえ入れておけば、よほどのことがない限り劣化することはなく、金庫などに簡単にしまっておけます。また、不動産や高級外車のように所有しているだけで税金がかかるということもありません。アンティークコインの保有にかかる維持費はほぼゼロです。
さらに付け加えておきたいのは、その携帯性の高さです。アンティークコインは「ポケットに入れて持ち運べる高額資産」などとよくいわれます。文字通り、衣服のポケットやカバンに入れてどこへでも持っていけるのです。不用意に持ち歩くのは危険な行為ともいえますが、有事の際に素早く運び出せることは資産保全上の大きなメリットです。他の現物資産は、災害などが起きた際に破損したり紛失したりする恐れがあります。しかし、地震の最中に絵画などを抱えて逃げるわけにはいきません。
保管に手間もコストもかからず、必要に応じて肌身離さず持ち運ぶこともできるアンティークコインは、富裕層に高い安心感を与える資産なのです。ただし、美術品などと同様にコピー品が一部で出回っているのは事実なので、オークションや新興ディーラーなどで購入する場合には専門家のアドバイスが必須です。
[図表3]5ポンド金貨/1937年造/36㎜