ネットワーク対応精算機の開発
一ノ瀬がインターネットを活用したナンバー監視システム、すなわちロックレス駐車場システムの構想を描き、製品開発に着手していた2007年8月に、強力な助っ人として入社してきたのが開発部部長の三代澤英明だ。
三代澤も一ノ瀬と同じく、大手精密機器メーカーの精工舎に勤務していたエンジニアであり、精工舎ではコンピュータのアプリケーションエンジニアとして活躍していた。その後、システム開発会社に移り、システム系のアプリケーションを手がけていたときに、一ノ瀬から声がかかったというわけだ。
「当時アイテックのメイン商品はロック板や精算機でしたから、機械系とかファームウェアの技術者が主体で、一ノ瀬がネットワーク化を進めようとしても、ネットワークやサーバー系のエンジニアが手薄でした。そのため、ちょうどその分野の仕事をしていた私に声がかかったようです」
三代澤が入社したときは、ネットワーク対応のキャッシュレス精算サービスをスタートさせようということで、ネットワーク対応精算機の開発と同時に、センターとしての機能を担うサーバー側のシステム開発も進められていた。三代澤はそこに途中から参加するかたちで、ネットワーク対応精算機の開発に関わることになった。「ネットワーク対応精算機の開発は、精算機そのものを手がけるチームと、精算機のデータを収集したり料金設定などを遠隔管理するソフトウェアを担当するチーム、サーバー系を担当するチームの3種類からなり、私はサーバー系を任されていました」
三代澤は、アイテック入社後の1~2年間はネットワーク対応精算機の開発に携わりつつ、それと並行してロックレス駐車場システムの開発を進めていた。
「サーバーの開発というのは、画像データや入出庫データなど、さまざまなデータの通路をつくる作業なんですね。基本的なコンポーネントの流れの経路はあるわけで、そこにどういうサービスをどう追加していくかと、常に新しいものを考えています。こういう通路があれば、新しいサービスを始めようとしたときに、どういう流れでどうすれば、どういうことまで実現できるかが、イメージできるわけです」
2009年にはグローバル・ネットワークシステムならびに「QT‐net」サービスを構築した。
新世代のネットワークシステムも構築
前章(※書籍参照)でも紹介したように、グローバル・ネットワークシステムは、各駐車場の精算機とアイテックのデータセンターにあるホストコンピュータをインターネット回線でつなぎ、キャッシュレス精算やポイント付与サービスなどを提供する、新世代の駐車場管理システムだ。
そして、このシステムを活用する駐車場運営会社が加盟するのがQT‐netであり、QT‐net倶楽部の会員になれば、運営会社の枠を超えて、QT‐net加盟駐車場ならどこでも同様のサービスが受けられる。「タイムズ」を展開する駐車場運営会社最大手のパーク24や、「リパーク」の三井不動産リアルティなどは、自社でこうした会員向けサービスを提供しているが、アイテックのようにメーカーとして運営会社の枠を超えた会員サービスを提供している例は、ほかにはないだろう。
当時、アイテックでは、サーバー系に関われる技術者は、社内で三代澤ひとりだけだったため、ベンダー2社の協力を得て、約1年がかりで開発にこぎつけた。
「グローバル・ネットワークシステムやQT‐netサービスは、自社でゼロからつくっていったのですが、そのころは、サーバーエンジニアは私ひとりでしたから、データ送信などのテストもすべて自分で何度も繰り返して、改善していきました。ですから、その1年間というのは、かなり忙しい時期だったという記憶がありますね」