コインパーキングは他業界に比べてIT化が遅れている!?
ロック板式駐車場とロックレス駐車場。両者の違いは先述したように、物理的な抑制と情報による抑制であり、IT技術がロックレス駐車場を可能にしたと言っていいだろう。しかし、アイテックの顧客は別として、コインパーキング業界ではロック板方式がいまだ主流を占めているということは、他業界に比べてIT化が遅れているということなのだろうか。その点について、一ノ瀬に聞いてみた。
「以前、タクシーに乗った際に運転手さんから仕事を聞かれ、駐車場をつくっていると答えたら、『ローテクですね』と言われたことがあるんですよ(笑)。たしかに駐車場機器をつくっているのは機械メーカーが多く、われわれのようなネットワークを活用したサービスを提供しているところは少ないかもしれません。
これまでは、ロック板方式なりゲート方式なりの駐車場をつくって提供すること自体がサービスで、そのサービスを提供するかわり、たとえマイナス要因があっても、それらは受忍してくださいというのが基本的なスタンスでした。
でも、ユーザーファーストという時代の流れのなかで、利用者の快適性や利便性、安全・安心といったものを追求していくと、ロックレス方式に限らず、駐車場というものはどんどんシステム化され、センター管理されていくことになるでしょう。
さらに、いまの時代は、ネットワーク化を進めていかないことには、お客様に真に喜ばれるサービスは提供できなくなってきています。ですから、われわれは各駐車場を『点』としてとらえるのではなく、インターネットという『線』で結びつけたサービスを展開しようとしているのです」
アイテックがそうした駐車場のシステム化やネットワーク化を推し進めていけるのは、一ノ瀬がもともとシステム系のエンジニアであり、精密機器メーカー勤務時代にはマイクロコンピュータやコンピュータネットワークの開発に携わっていたからだ。その経験が駐車場のシステム開発にも活かされているのである。
「そんなことをしてどうするの?」
アイテックがグローバル・ネットワークシステムを開発し、駐車場のネットワーク化を本格的にスタートさせたのは2008年からだが、一ノ瀬は、駐車場設備機器メーカーとして自社製品の開発を手がけ始めたころから、すでに駐車場をネットワークで結ぶことを考えていた。しかし、それに必要なインターネット環境が、当時はまだ整っていなかったのだ。
一ノ瀬が駐車場のIT化を推進しようとしていることを、取引先をはじめ周囲に打ち明けても、「そんなことをしてどうするの?いまのままで十分ビジネスになっているんじゃないの?」というのが大方の反応だったという。
業界関係者のそうした反応からもわかるように、コインパーキング業界というのは、ロック板方式でその歴史の幕が開けられて以来、およそ四半世紀にわたり、ほとんど変わらずにきている稀有な業界とも言えるのかもしれない。
コインパーキングは、どこもロック板方式という同じサービスを提供し、そのことに格別疑問を感じることもなかった。その間、ロック板自体はスリムな形状へ、より耐久性に優れたものへと進化したものの、コインパーキングといえばロック板というのが常識であり、まったく違う形態というものは、誰も思いもよらなかった。それだけに、監視カメラやインターネットを活用して不正を抑止できると聞いても、ロック板をなくすことへの不安のほうが大きかったのだろう。
「物理的な管理から、インターネットを活用した情報による管理へ。いわばパラダイムシフトのようなものですからね。なかなか理解してもらえなかったのかもしれません。
でも、いまやパソコンやスマートフォンなどの情報通信機器に限らず、クルマでも家電品でも、あらゆるモノがインターネットにつながり、多種多様なデータを送受信する、IoT(InternetofThings)と言われる時代が到来しているのです。駐車場業界も、避けて通るわけにはいきません。それに、ネットワーク環境が整えば、そこから新しいサービスの可能性がどんどん広がっていくはずです」
アイテックが開発したロックレス駐車場システムにより、コインパーキング業界でもようやくネットワーク化の端緒が開かれた。しかし、大きく変わるのはまだまだこれからだろう。
一ノ瀬は、今後IT化がますます進み、クルマの自動運転なども実用化され、あらゆるものが情報で管理される時代になれば、駐車場の業態も、いまとはまた違ったものになると見ている。ロックレス駐車場システムは、いわばIT化による本格的な情報管理時代が到来するまでの橋渡し的なものとして、とらえているのだ。ただ、現時点での最も理想的な駐車場システムであるとの自負が揺らぐことはない。